第1章 夢で見た世界は
『……趣ありすぎではありませんか? 期待以上なのですが』
目の前にはいかにも「ここは幽霊が出ますよ」という雰囲気のボロ屋敷が小高い丘の上に建っている。
築何年だろう? 50年ぐらい前の姿だったらさぞかし立派だったろうなー!
「喜んでくれて良かったです! さあ中へどうぞ」
嫌味を可憐にスルーした学園長は、ギィ……と耳障りな音をたてる門を開いて満面の笑みを浮かべている。
もしかしたらボロいのは外観だけで中は豪華絢爛だったりして!?
わずかな期待を胸にドアを開くと、ムワッと埃とカビの臭いに思わず鼻と口を覆った。
「ここであれば、とりあえず雨風は凌げるはずです」
『……私、何か恨みを買うようなことしましたっけ?』
「入学式で騒動を起こしました」
いや、それ私じゃない。
「な~んて冗談ですよ! 私は調べものに戻りますので適当に過ごしていてください。 学園内はウロウロしないように! では!」
なんて無慈悲な人なんだ。
一人残された部屋をぐるっと見回すと、辺り一面に積もった埃が雪みたいだった。
こんな場所に一人でいるのはとても心細いし怖い!
もう夢から覚めてもいい頃じゃない?
ソファの埃を軽く払ってから腰掛け、天井にまで届きそうな大きな窓から外の景色をぼーっと眺める。
しばらくすると、ぽつぽつと雨が降り始めてきた。
次第に強くなり、窓を殴りつける雨のせいで外の景色が歪んで見えなくなってしまった。
屋内が一層暗くなってしまい灯りを求めて壁掛けランプをいじる。
古い洋館にありそうなランプで使い方なんて知らなかったけど、いかにも「スイッチです」と主張しているつまみがひとつだけあったので捻ったらほんのり灯りをともしてくれた。
「ぎえー! 急にひでえ雨だゾ!」
『ぎゃっ! さっきの狸!?』
驚いて後ろを振り返るとあの狸がいた。
「グリム様だ! オマエの驚いた顔、コウモリが水鉄砲くらったみたいな間抜けな顔だったゾ!」
『もう! 心臓が止まるかと思ったよ……ってあれ? 追い出されたんじゃないの? なんでここにいるの』
「オレ様の手にかかればもう一度学校に忍び込むことくらいチョロいチョロい」
どうやらまだ入学を諦めてないみたい。
人間ならまだしも、獣がそんなに学校へ執着する理由が分からない。
一人でいるのも心細かったし、暇潰しにこの子とお喋りでもしてよう。
