第1章 夢で見た世界は
「やはり、ない」
一緒に図書館であらゆる世界地図を調べてみたが、どんなに詳しく地名が乗っている地図でも私の故郷の地名はどこにも載っていなかった。
そもそも、私が知っている世界地図ではなかった。
私の夢の中の地図ってこんな感じなんだ……
「世界地図どころか、有史以来どこにも貴方の出身地の名前は見当たりません……貴方、本当にそこから来たんですか? 嘘をついているんじゃないでしょうね?」
『嘘を吐く理由がありません!』
う~んっと唸ってしばらく考え込んでしまった学園長。
机に広げられた本に視線を落としたまま話し始めた。
「こうなってくると貴方が何らかのトラブルで別の惑星……あるいは異世界から招集された可能性が出てきましたね」
『異世界?』
なんか段々と壮大な物語になってきてる……
「貴方、ここへ来るときに持っていたものなどは? 身分証明になるような、魔動車免許証とか、靴の片方とか……」
身分証明できる類のものは財布に入ってるけど、ポケットを探ってみても都合よく財布が入ってるはずもなく……って靴の片方って身分を証明できちゃうの!?
「魔法が使えない者をこの学園に置いておくわけにはいかない。 しかし、保護者に連絡もつかない無一文の若者を放り出すのは教育者として非常に胸が痛みます―――私、優しいので」
『……』
本当に優しい人は自分で自分のこと優しいって言わないと思います。っと言えるはずもなく大人しく話の続きを待つ。
「う~ん……そうだ! 学園内に今は 使われていない建物があります」
詳しく聞くと、昔寮として使われていた建物だそう。
掃除すれば寝泊まりぐらいは出来ると言っているが……なんだか嫌な予感が。
「そこであれば、しばらく宿として貸し出して差し上げましょう! その間に、貴方が元いた場所に帰れる方法を探るのです」
寝泊りできる場所があるだけありがたいと思うか。
「あ~なんて優しいんでしょう、私! 教育者の鑑ですね」
『は、い……そうですね』
ちょっと変わってる人だけど、まぁまぁ優しいかな。
「善は急げデス。寮へ向かいましょう。少し古いですが、趣のある建物ですよ」
へ~。
まぁでも、昔の趣のある建物は好きだから楽しみだな。