第1章 夢で見た世界は
話を聞くと、「大魔法士」とやらになるためだという。
「いつか黒い馬車が迎えに来るのをオレ様ずっとずっと待ってた。なのに……なのに……」
馬車がお迎えに来るのを待ってたって……乙女。
「ふ、ふん! 闇の鏡も見る目がねーんだゾ。 だからオレ様のほうからきてやったってわけだ」
『凄い行動力と自信……!』
腕を組んで仁王立ちしてたグリムが突然後ろへ飛び跳ねた。
「に"ゃッ! つめてっ! 天井から雨漏りしてやがるんだゾ!」
上を見上げると水滴がポタポタと垂れている。
『バケツを探さなきゃ部屋が水浸しになっちゃうね』
ここは1階。
上にも部屋があるから、そこにもバケツを置かなきゃ。もう水浸しだろうけど。
「こんなの魔法でパパーッと直しちまえばいいんだゾ……ってオマエ魔法使えねえのか。 ププーッ! 使えねえヤツだゾ!」
コ、コイツッ!!
『じゃあグリム様が手伝ってくれればいいじゃない』
「やーなこった! オレ様はちょっと雨宿りしてるだけの他人(他モンスター)なんだゾ。 ツナ缶も出ないのに、タダ働きするのはゴメンなんだゾ」
『そんなこと言われても、今ツナ缶なんか持ってないよ……』
「じゃあオレ様は手伝わねーんだゾ」
薄情なグリムを残してバケツを探しにいく。
ガラクタが散乱している暗い廊下を歩いていると、さっきまでじめじめしていた空気が急にひんやりしてきた。
歩く度にギィギィと底が抜けそうなほど軋む床に、隙間風に煽られて揺れる蜘蛛の巣。
『これ絶対なにか出るやつじゃん……』
両手を胸の前で握って何も出ませんようにと祈りながら歩き続けていると、あるドアの前を通り過ぎる時に不気味な笑い声がその向こうから響いてきた。
「―――ひひひひ……イッヒヒヒヒ……」
反射的に視線をドアへ向ける。
今何か聞こえたような……気のせいだよね?
一刻もはやくその場から立ち去りたいのに恐怖のあまり体が動かない。
そのままドアを凝視していると、にゅッと白いもやがドアをすり抜けて目の前に現れた。
『ッぎゃぁああーー!!』
驚きのあまり腰が抜けてしまった。
「何を大騒ぎしてる―――ギャーーッ!! おおお……お化けぇえええ!!」
疾風の如く私の背後に隠れたグリムが服を掴んでぶるぶる震えている。 必死でしがみついているせいで爪が服を貫通してて痛い。
