第1章 夢で見た世界は
学園長はひとつ咳払いをすると、
「では学園外に放り出しておきましょう。鍋にしたりしません。私、優しいので。誰かお願いします」
厄介払いができて嬉しいのかな良い笑顔だ。
首根っこを掴まれた狸は、大魔法士になるんだとかなんとか叫びながら連行されていった。
どうしてあんなにこの学校に入りたがってるんだろう。
何か相応の理由があるならちょっと気の毒だな……
入学式の閉会が伝えられ、ぞろぞろと出ていく皆を部屋の隅で眺めていると学園長が近付いてきた。
「―――さて、ウテナさん。大変残念なことですが……貴方にはこの学園から出て行ってもらわねばなりません。 魔法の力を持たない者をこの学園へ入学させるわけにはいかない」
まぁ、魔力の波長が一切感じられないってことは、魔法が使えないってことだよね。
せめて夢の中だけでも魔法が使えたら良かったのにな……
「心配はいりません。闇の鏡がすぐに故郷へ送り返してくれるでしょう。さあ、扉の中へ。強く故郷のことを念じて……」
私は目を瞑って、自分の日常の風景を思い浮かべた。
「さあ闇の鏡よ! この者をあるべき場所へ導きたまえ!」
……あれ?
待てど暮らせど何も起こらないのでうっすらと目を開く。
「……もう一度。闇の鏡よ! この者を―――」
「―――どこにもない……」
「『え?』」
今回の夢はなかなか上手く物事が進まないなぁ。
「この者のあるべき場所は、この世界のどこにも無い……無である」
夢の世界で存在を否定されちゃった? え、ちょっと悲しい。
「なんですって? そんなこと有り得ない! ああ、もう今日は有り得ないのオンパレードです!」
どうやら戸惑っているのは私だけじゃないみたい。
夢の中の人でもこんなに焦ったりするんだ。
「私が学園長になってから、こんなことは初めてでどうしていいか……そもそも貴方、どこの国から来たんです?」
『私の故郷は――』
学園長に出来うる限り詳しく自分の故郷について話した。
知る人ぞ知る超秘境に住んでいるわけじゃないのに、学園長は首を傾げるばかり。
世界中の生徒の出身地は把握しているがそんな地名は聞いたことがない……と。