第1章 夢で見た世界は
なぜ人間でありかつこの夢の主である私が魔法使えなくてこの狸が使えるの? 納得できない。
狸がどんな魔法を披露するのかと待っていると、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「みんな伏せて!」
『え?』
「ん"な"~~~!!」
理解が追い付かずにその場で突っ立っていると、右腕と左肩を強く掴まれ地面へと押し付けられた。
「伏せろと言ったのが聞こえなかったのか!」
『す、すみませんっ』
横を見ると、鮮やかな赤髪の青年が私をキッと睨んでいる。
地面に伏せて間もなく頭上を青い炎が覆いつくした。
この人に助けてもらっていなかったら今頃丸焼きに…
狸の吹いた炎のせいで鏡の間が地獄絵図と化していた。
「うわあ!! あちちちっ! 尻に火が!」
『ッぶふ』
不意に聞こえた叫び声に不謹慎にも噴出してしまった。
お尻に火って、そんなコメディ映画みたいなことが起きるなんて……さすが夢の中。
「このままでは学園が火の海です! 誰かあの狸を捕まえてください!」
「クロウリー先生お任せください!」
名乗りを上げたのは眼鏡をかけたTHE優等生と、狸の炎から助けてくれた赤髪の青年。
「見ろ! オレ様はつえーんだゾ!」
ふーッふーッと己の力を見せつけるように火を吹き続ける狸。
「いたいけな小動物をいたぶって捕獲するというみなさんが嫌がる役目、この僕が請け負います」
「ボクの目の前でルールを破るとは、大層度胸がおありだね。違反者は見逃せない」
なりふり構わず辺り一面に火を噴いていた狸は、ふたりによってあっさり御用となった。……本当に、あっさりと。
―――『首をはねろ』(オフ・ウィズ・ユアヘッド)!
赤髪の青年がそう言い放つと、狸に首輪がはめられた。
その首輪をはめられてから火を吹けなくなったようで、シャーシャーと威嚇するだけの猫になっていた。
「ボクがその首輪を外すまでキミは魔法を使えない。 ただの猫同然さ」
自分も学校も丸こげになるのは防げたようでホッとしていたのも束の間。
鬼の形相で学園長が私に詰め寄った。
「どうにかしてください! あなたの使い魔でしょう!? しっかり躾を……」
『待ってください! あんな狸知りません! 今日初めて会ったばかりなんです!』
「え? 貴方のじゃない?……そ、そうでしたっけ?」