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王子と悪徒の異聞奇譚

第1章 夢で見た世界は


目的地の扉の向こうでざわざわと話し声が聞こえてくる。

「腹でも痛めたんじゃないか?」

聞こえてきたその言葉と同時に学園長が勢いよく扉を開け放った。

「違いますよ!」

学園長と共に戻った“鏡の間”には魔法使いがいかにも着ていそうな服装の人が大勢いた。
学園長のせいで皆の視線がこちらに向けられる。 恥ずかしい!

思わずさっと学園長の背後に身を隠す。
「あの子誰?」といった視線がグサグサ刺さって胃が痛くなってきた。

「まったくもう。 新入生が1人足りないので探しに行っていたんです」

『あ、ちょッ』

私が背後に身を隠していることに気付いていない学園長は、皆の真ん中をズカズカと進んでいく。
待って待って待って!!
私はどうすればいいの!?
あたふたしていると、部屋の奥中央に鎮座している鏡の前で学園長がこちらを振り返った。

「さあ、寮分けがまだなのは君だけですよ。 狸くんは私が預かっておきますから、早く闇の鏡の前へ」

皆の視線を振り切るように鏡の前へ小走りで向かう。

『ッ!?』

鏡の前に着くと、フッと仮面のような顔が浮かび上がった。

「汝の名を告げよ―――」

『……ウテナです』

「汝の魂のかたちは―――分からぬ」

「なんですって?」

「この者からは魔力の波長が一切感じられない……。 色も、形も、一切の無である」

学園長の反応からあまり良くない状況なのが分かる。
周りの生徒達もざわついている。居心地が悪い。早くここから逃げ出したい―。

「よって、どの寮にもふさわしくない!」

「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えに行くなんてありえない! 生徒選定の手違いなどこの100年ただの一度もなかったはず……一体なぜ?」

私はここにいるべき人間じゃないってこと?
まさか夢でこんな恥ずかしい思いをする日がくるなんて……
お願いだからはやく覚めて!

「ッぷは! だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!」

「あっ待ちなさい! この狸!」

学園長の拘束から抜け出した狸が鏡の前へ出た。

「そこのニンゲンと違ってオレ様は魔法が使えるんだゾ! だから代わりにオレ様を学校に入れろ!」

初めて会った時から思ったけどこの狸すごく偉そうだな。
そこがちょっとかわいいと思い始めている自分に戸惑いが隠せない……!

「魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!」
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