第1章 夢で見た世界は
「離せ~! オレ様はこんなヤツの使い魔じゃねぇんだゾ!」
「はいはい、反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。 少し静かにしていましょうね」
そう言って男は狸の口まで紐でぐるぐると巻き始めた。
「まったく。 勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です! どれだけせっかちさんなんですか」
やれやれといった感じで話しているが、何のことだかさっぱり分からない。
夢の中の出来事を理解しようとするのがそもそも無理な話。
覚めるまで適当に過ごそう。
「さあさあ、とっくに入学式は始まっていますよ。 鏡の間へ行きましょう」
促されるままに仮面の男の後を追いながら、気になっていることをいくつか質問をしてみた。
分かったのは、自分が『ナイトレイブンカレッジ』の新入生だという夢を見ていること。
しかもここは普通の学校ではなく名門魔法士養成学校。楽しそうじゃないか!
そしてこの仮面の男は学園長のディア・クロウリー。
こんな男前な学園長初めてみた……仮面付けてて顔見えないけど。
夢の中で意識がはっきりしている状態は滅多にないので、覚めるまで楽しむのもありかな。魔法使ってみたいし。
どうすれば魔法使えるんだろう?
右手をバッと前にかざし、自分がよく想像するザ・魔法が出るのを期待した。
『ふんッ!!』
いくら力んでも何も起こらない。
「あなた、何してるんですか?」
何事かと振り返った学園長が、頭のおかしな人を見るような目でこちらを見ている。
『魔法使おうかな~って……』
「そんなことしている場合じゃありません! はぁ、ほら早く行きますよ」
なんか思ってたのと違う!
思ったように魔法が使えないと分かって気分がズーンと下がってしまった。
魔法の乱れ撃ちできないのかぁ。はやく夢から覚めないかな……