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王子と悪徒の異聞奇譚

第3章 楽しい学園生活の始まり始まり


シャワーを浴びていないことを思い出し、疲れで重い体をなんとか起こす。
ボロボロのバスルームは正直入るのを戸惑う程荒れていた。 お湯が出るだけとりあえず良しとしよう。

『ふ〜』

胸に巻いてあるさらしを外すと戻ってくる重量感。 動き易くはなるけど長時間は少ししんどいかな。
髪も解き、お湯で汗と今日の疲れを洗い流す。
さっぱりした体にタオルを巻き鏡の前で歯を磨く。

シャコ、シャコ、シャコ―――

『……』

口をすすぐために鏡から目線を逸らした瞬間に感じる違和感。
誰かに見られている気がする。
恐る恐る視線を上げると、鏡の中の自分と目が合った。

『ッ!?』

鏡なのだから自分と目が合うのは当然だ。が、問題はその表情。
今の私の表情は間違いなく恐怖で強張っている。
なのに、鏡の私はにやりと笑みを浮かべていた。

『あ"ぁああーッ!』

もうこんな場所嫌だ!
一刻も早くここから出たくて玄関目掛けて廊下を駆け抜ける。
自分がバスタオル一枚だけなのも忘れて外へ飛び出した。

「おわっ!?」

まさかドアの先に人がいるとは思わず、飛び出した勢いのまま押し倒してしまった。

『エース!!』

「は? お前だ……れっ」

もう私の顔を忘れたのか。
いや、それよりもエースが来てくれて良かった。

『あぁ、良かった……』

「……」

『エース?』

石みたく全く動かないエースを不思議に思い、彼の顔を覗き込む。
視線が合うことはなくずっと下の方に向けられている。 そう、ちょうど私の胸辺りに。

『っ!』

バスタオルが―――無い!!

『見ないで!』

「わ、わりぃ!」

走ってる途中で落ちたことに気付かなかった。

「まさかウテナが女を連れ込んでるなんて」

『は?』

こちらを見ないように顔を逸らし、制服の上着を掛けてくれながらエースがボソッと呟いた。
もしかして私、女だと認識されてない?
確かに恰好は王子様を意識して男の子っぽくしてるけど……けど!
思わず顔を覆ってしまった。

「お、おい! 急にどうしたんだよっ……もしかしてウテナに酷いことされたのか?」

私がそのウテナ本人なんですけどね。

「こんな夜中になんの騒ぎなんだ? うるさくて眠れねーんだゾ……ウテナ、オマエなんで裸なんだ?」

「えぇえええ!? お前ウテナなの!?」
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