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王子と悪徒の異聞奇譚

第1章 夢で見た世界は


「……」

話し声がする。
その声の主が何かを叫んだと同時にがたガタンッと音がしパッと視界が明るくなった。

『え、なに!?』

突然明るくなった視界一杯に広がるのは青い炎。

「ってギャーー!! オマエ、なんでもう起きてるんだ!?」

私を見て誰かが叫び声を上げた。
驚いたことに声の主は、

『しゃべる狸!?』

でも普通の狸じゃない。
耳が燃えている……?

「誰が狸じゃーー!! オレ様はグリム様なんだゾ! そこのニンゲン! オレ様にその制服をよこすんだゾ! さもなくば――」

え、なんで身ぐるみ剥がされそうになってるの!?
裸にされるのは困る。
服を渡してなるものかと自分の両腕をギュッと抱きしめていると狸が物騒なことを言い放った。

「丸焼きだ!」

『そんなの絶対に嫌だ!』

とりあえず走ろう!無我夢中で狸から逃げる。
自分がいまどこを走っているかも分からないけど、視界に入った曲がり角やドアを見境なく走り抜ける。

『はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫かな』

……にしてもここは一体どこ?

周りを見渡すと本棚がずらりと並んだ部屋にいた。図書館かな。
奥の本棚の陰に身を潜めて今の状況を整理しようとしたその時、

『うわッ!』

目の前を青い炎が横切った。

「オレ様の鼻から逃げられると思ったか! ニンゲンめ!」

この狸は一体なんなんだ!?
あ、そうか、これは夢だな。
夢を夢だと認識できたのはいいけど、問題はどうやったら目が覚めるか。

「さあ、丸焼きにされたくなかったらその服を―――」

「ッ!」

目をぎゅっと瞑り、両手を合わせて心の中で念じた。

「(覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ!!)」

いくら夢でも丸焼きは怖すぎる!

「ふぎゃっ!? 痛ぇゾ! なんだぁこの紐!」

「紐ではありません。 愛の鞭です!」

突如現れた仮面の男によって狸は紐でぐるぐる巻きにされ、ぷらぷらと情けない姿で吊られていた。

「ああ、やっと見つけました。 君、今年の新入生ですね?」

『はい?』

夢ってだいたい「もうダメだー!」って状況になった時に覚めるものじゃないの?
なんで続いちゃってるの!

「ダメじゃありませんか。 勝手に扉から出るなんて!」

散々な目に遭っているのに何故か怒られている……?

「それに、まだ手懐けられていない使い魔の同伴は校則違反ですよ」
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