第2章 夢ではなかった
「……ん? コレ、なんだ?」
「さっきのバケモノの残骸か?」
グリムがみつけたのは真っ黒な石。
「なんだかコレ、すげー良い匂いがするんだゾ……」
『匂い? 匂いなんてしないけど……』
グリムの隣にしゃがんで、石を嗅いでみたが特に良い匂いはしなかった。
「うう~っ、我慢できない! いただきまーす!」
『あ!』
掌に乗っていた黒い石をパクっと食べてしまった。
石なんか食べたらお腹を壊すだろうし、あの怪物から出たものだったら絶対に食べるのは良くないに決まっている。
『こら! ペッしなさい! ペッ!』
吐き出させようと背中を叩くが、前足で口を塞いだグリムはそのまま石を飲み込んでしまった。
「う"っ!!」
「おい、大丈夫か!?」
声を詰まらせたグリムに青ざめる。
「あーあ。 そんなもん拾い食いするから~」
『い、今助けるからね!』
グリムの後ろ脚を掴み、逆さにして一心不乱に上下に振る。
「うっ、うううう……」
「待てウテナ! そんなやり方では石を取り出せない。 遠心力を利用するんだ」
『え、どうやって?』
「貸してみろ」
グリムを受け取ったデュースは、同じく後ろ脚を掴んでぐるぐる回りだした。
「ちょい待ち! あんたらパニクりすぎだって! お~い毛玉、大丈夫かぁ?」
私たちからグリムを取り上げたエースが心配そうに尋ねる。
「うんまぁ~い!」
『心配して損した……』
「まったくだ」
石を堪能するのに夢中で、私とデュースに振り回されていたことを気にして……気付いていない。
「まったりとしていて、それでいてコクがあり香ばしさと甘さが舌の上で花開く……まるでお口の中が花畑だゾ!」
得体の知れないものを食べたグリムをみんなそれぞれ心配するが、当の本人はなんともない、むしろ元気になっている気さえする。
何はともあれ、苦労して手に入れた魔法石を理事長へ届けるために森を後にした。