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王子と悪徒の異聞奇譚

第2章 夢ではなかった


もうすぐ小屋に辿り着くところで怪物に追い付かれてしまう。
相手も相当必死なようで、あの多くの大釜を押しのけて追いかけてきた。
追いかけてきている間もずっと魔法石を返して欲しいと訴えかけていた。

ごめんなさい……でもこの魔法石がどうしても必要なんだ。

可哀想だけどこのままやられるわけにはいかない。
さっきの炎の竜巻と大釜が効いたようで動きが鈍くなっている。

―――今なら……

『今なら倒せるかもしれない』

「あーっ、もぉ! やったろーじゃん! チビんじゃねーぞ真面目クン!」

「お前こそ!」

「オレ様の真の力、見せてやるんだゾ!」

魔法が使えない私は離れた場所から見守る。
遠くから見ていると、近くで戦う彼らが気付けないような隙が見えてくる。
少しでも役に立ちたくて、見つけた隙を伝える。
彼らも必死なのか素直に私の言葉を聞いてくれた。

『やっ……た?』

「か、勝った……オレ様たち勝ったんだゾ!」

彼らの奮闘でなんとか怪物を倒すことができた。
ハイタッチをして喜んでいる姿がなんとも可愛い。

『もうすっかり仲良しだね』

そう言うとお互いから離れて全力で否定する。

「別にこれはそういうんじゃない!」

「そ、そーそー! 変なこと言わないでくんない?」

「オッ、オレ様が大天才だから勝てたんだゾ! 力を合わせたから勝てたんじゃねーんだゾ!」

『はいはい』

「……って、言い訳すんのもダサいか。 悔しいけどウテナの作戦勝ち、かな」

エースが笑顔を浮かべた。 初めて見る、悪意のない笑顔を。

『え、こわ』

「なんでだよ」

「ゴホンっ……ウテナが落ち着いて指示を出してくれたからこうして魔法石を手に入れられた。 これで退学させられずに済む。 本当に良かった……ありがとう」

『みんなが協力したお陰だよ』

「はいはい、よかったよかったー。 マジ、クッタクタのボロッボロ。 早く帰ろうぜ」

これ以上の馴れ合いは気恥ずかしいのか、エースが会話を強制終了させる。 照れ屋さんめ。
緊張が解けた途端疲れがドッと押し寄せてくる。 早く帰って眠たいな。

帰り際、グリムが地面に何かを見つけたみたいで足を止めた。
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