第2章 夢ではなかった
「イジハ……オデノモノダアアアアァオオオ!!」
人間が怪物に変貌したようなその禍々しい姿を目にした途端、みんな悲鳴を上げて走り出した。 私を除いて。
『……あ、あのっ…』
恐怖のあまり腰が抜けてしまい、逃げることに必死な2人と1匹に置いてかれてしまった。
なんとか逃げようと腕に力を入れて後ずさるが、伸ばされた手によってあっさりと鷲掴みにされる。
『あ"ぁっ!』
逃げようと必死でもがくがびくともしない。
『ぐぅっ』
逃れようと暴れていると手に力を入れられ骨が軋む。
肺から空気を絞り出されて苦しい。
ぐったりしていると、頭の中に映像が流れてきた
走馬灯? 私死ぬの?
でもそれは、私が思っていた走馬灯とは違った。
映像の中には小人の姿が見える。 数人で一生懸命何か作業をしている。
何をしているのか意識を集中させようとした時、急に映像が途切れて声が脳内に響いた。
持っていかないでくれ――…
怪物の淀んだ声ではなく人の声。
訴えかけるその悲痛な声音に耳を傾けていると、突如突風が吹き荒れ現実に引き戻された。
『うわ!』
強風に煽られた怪物は、バランスを崩した拍子に私を手放した。
「なに逃げ遅れてんだよ!」
「肩に掴まれ!」
エースとデュースに腕を掴まれ、半ば引きずられる形で逃げる。
「ウテナー! もうダメかと思ったんだゾ……」
半べそをかきながらグリムがその場にへたり込む。
『確かにもうダメだと思ったけど……みんなのお陰で助かった。 ありがとう』
「怪我はないか?」
『うん。 掴まれたけど、特には』
掴まれた時は骨が折れるんじゃないかと思う程痛かったが、どこも折れてないみたい。
「なら良かった。 で、あのヤバイのは一体なんなんだ!?」
「あんなの居るなんて聞いてねーんだゾ! はやくここから逃げるんだゾ!」
「めっちゃエグい! でもアイツ石がどうとか言ってなかった!?」
『そういえば言ってたかも』
「やっぱりここに魔法石はまだあるんだ!」
デュースがパッと顔を輝かせる。
「むむむむむりむり! いくらオレ様が天才でもあんなのに勝てっこねぇんだゾ! ウテナ!」
はやく帰ろうとグリムが訴えかけてくるが、デュースたちだけ置いていくわけにはいかない。