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王子と悪徒の異聞奇譚

第2章 夢ではなかった


「ふぎゃぁ~~っ!! ででででたーーっ!!」

先頭にいたグリムが涙目で一心不乱に私によじ登ってきた。
抱き留めようとするがパニック状態で大人しくしてくれない。

『グリム落ち着いて』

「バカ、落ち着けって!」

「くそっ。 ゴーストに構ってる暇なんかないっていうのに……! 走ってゴーストを撒くぞ! 僕に付いてこい!」

走り出したデュースに続いての炭鉱の中を走り抜ける。
中が入り組んでいたお陰でなんとかゴースト達を撒くことが出来た。
しかし、安心したのも束の間。

「向こうになんかいる……!」

『もうゴーストは勘弁して欲しいっ』

岩影に隠れて目を凝らすとゴーストが数体うろついている。
石がゴロゴロ落ちていて走り難く、普通に走るより倍疲れた。
もしまた追いかけられたら逃げきれる自信がない。

「ここもゴーストがうろうろしてんのかよ!」

「いちいち構ってたらキリが無い。 先を急ぐぞ」

「偉そうに命令しないでほしーんだけど」

どこへ逃げてもゴーストがうろついていて思うように魔法石を探せず、エースが苛立ち始める。

「大体、お前があんな馬鹿な真似しなきゃこんなことになんなかったのに」

「元はと言えばお前が掃除をさぼったのが原因だろう!」

「それを言ったら、最初にハートの女王の像を燃やしたのはそこの毛玉だぜ!」

「ふな"っ! オマエがオレ様を馬鹿にしたから悪いんだゾ!」

『こんな所で言い争ってる場合じゃないってっ』

声を荒げる彼らに小声で注意するが、言い争いは段々激しくなっていく。
ゴーストに見つかりはしないかヒヤヒヤしていると、突然頭から冷水をかけられたような寒気に襲われた。

……ゴースト?

違う。 ゴーストとは明らかに気配が違う。
何か聞こえた気がして耳を澄ませる。

―――で――て……

人間の声じゃない! ゴーストの声とも違う地を這うような不気味な唸り声。

『ね、ねぇ……声が聞こえる』

恐怖で声が震える。 只ならぬ雰囲気に彼らは言い争いを止めてあたりの気配を探った。

「……なぬ……うぅ……ぬ―――」

「「『!?』」」

「い……し……ウゥウウ……オデノモノ……」

「こ、この声……は?」

「なんか……だんだん近づいて……」

どすっ、どすっ、と一定のリズムで音が続く。
暗闇から姿を現したのは天井に届くほどの大きな怪物だった。
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