第2章 夢ではなかった
「って、おいおい、ちょい待ち!」
急に自分の方に向かって構えたデュースにエースが焦りだす。
「なんでマジカルペンこっちに向けてんの!?」
「お前を投げればいいんだ!」
おバカなの!? エースを投げ飛ばしたい気持ちは分かるけど……けど!
『人間を投げるのはダ――』
デュースを止めようと手を伸ばすが、彼は何の躊躇いもなくエースを浮かせ、グリムがぶら下がっているシャンデリアへと投げ飛ばした。
「ぎえええええええ!!」
「ふなあ"ぁあああ!?」
反射的にグリムを捕まえたはいいが、エースがぶつかってしまったシャンデリアは大きな音を立てて落下した。
「信じらんねえ!」
「し、しまった! 捕まえた後の着地のことを考えてなかった……!」
「おっま……バッカじゃねぇの!?」
エースがデュースに掴み掛かる。
これだけ大きな騒ぎを学園長が気付かぬはずがない。 いつ現れてもおかしくない。
『グリムは捕まえたけど、シャンデリアぶっ壊したのが学園長に知れたら……』
騒動を起こしたらどんなお仕置きをされるのかエースは身に染みているから焦っている。
私も今回は愛の鞭をくらうのかな……
学園長がいつ現れるのかびくびくしていると、
「知れたら……何ですって?」
『もう来たっ』
予想以上にはやかった学園長のお出ましに血の気が引く。
「あなた達は一体何をしているんですか!! 石像に傷を付けただけでは飽き足らずシャンデリアまで破壊するなんて!」
こちらが事情を説明する隙も、そもそも聞くつもりもない学園長は早口で捲し立てる。
「もう許せません。 全員、即刻退学です!」
”退学”という言葉にエースとデュースが酷く取り乱す。
「そんな! どうかそれだけはお許しください! 俺はこの学校でやらなきゃいけないことがあるんです!」
「馬鹿な真似をした自分を恨むんですね」
必死に謝罪するデュースだが、学園長は許す気など毛頭ないようで抑揚のない口調で突き放す。
弁償するとなおも食い下がるが、我々が壊してしまったシャンデリアはただのシャンデリアではなかった。
伝説の魔法道具マイスターに作らせた、永遠に尽きない蝋燭に炎が灯る魔法のシャンデリアで、10億マドルは下らない品物だという。
「学園設立当時からずっと大切に受け継がれてきたというのに……」