第2章 夢ではなかった
『うわぁ……これは腰いっちゃったんじゃない?』
大釜に潰されて苦しそうにもがくエースを一瞬可哀想だなんて思ったけど、よくよく考えたら自業自得じゃん。
「エースのヤツ、でっけえ釜の下敷きになってペッタンコになってるんだゾ! だっせーゾ!」
今朝、”だっせー”と言われたことを根に持ってたんだ。
グリムがエースをここぞとばかりに煽る。
「まさか大釜が出るとは。 ちょっとやりすぎだか……?」
『いえ。 これは罰から逃れようとしたさらなる罰。 お陰様で捕まえることが出来たよ。 ありがとう』
よいしょっと大釜の下からエースを引っ張り出す。
「あいたたた……いーじゃんかよ。窓拭き100枚くらいパパッとやっといてくれたってさー」
『簡単に言ってくれるな! 私は魔法が使えないからパパッと出来ないんだよ!』
「あ"いたたた"ッ!!」
うつぶせでぶーたれてるエースの背中に馬乗りになり、彼の両腕を力一杯後ろへ引いた。
「分かった分かった! 窓拭きすればいいんだろ!」
「いいぞウテナ! やっちまえ!」
グリムと一緒にエースに仕返しをしていると、私たちを眺めていた大釜の青年が話しかけてきた。
「窓拭き100枚って……一体君たちは何をやったんだ?」
「今朝、そこの毛玉とじゃれてたら、ハートの女王の像がちょーっと焦げちゃっただけ」
「グレート・セブンの石像に傷を付けたのか!? それは怒られるに決まってるだろう。 せっかく名門校に入学できたっていうのに初日から何をしてるんだか……」
そんな大変な事をしでかしたのか呆れ果てている。
「るっせーなぁ。 つーかお前、誰?」
「僕はデゥース。 デゥース・スペード。 クラスメイトの顔くらい覚えたらどうだ? ―――えーっと……」
デゥースと名乗った青年は、エースのハートと同じような、スペードの模様が右目に描いてあった。
「お前も覚えてねーじゃん」
って、君もエースのこと覚えてないんかい。
初日ってクラス全員自己紹介するよね?
皆の名前と顔を一発で覚えられなくてもなんとなく「クラスにいたな~」ぐらいには覚えてるもんじゃないのかな……デゥースはエースの顔を覚えてたからまだマシかな。
「とっ、とにかく! 学園長からの命令なら、真面目に取り組むことだ」