第2章 夢ではなかった
びくりと肩を震わせて振り返った人物は、女の自分でも一瞬ドキッとするほどの美少女だった。 少し声が低めの。
『あの、寮への扉がある場所を教えてくれませんか?』
「いいですよ。 僕もそっちの方向へ行くから案内してあげる」
僕?
「こっちだよ」
なんだか違和感を感じるが今はとにかくエースを捕まえないと。
ちらりと横に並んで歩く横顔を盗み見る。
『……』
長い睫毛、愛らしい瞳、透き通るような綺麗な肌、手触りの良さそうな髪……
生まれて初めて女に生まれたことを後悔したかも。
そんなことを考えながら歩いて数分後、目的地に着いた。
『ありがとう。 えーっと……』
「僕はエペル」
『ありがとうエペル。 私はウテナ』
「よろしくね、ウテナ。 それじゃあ僕はこれで」
エペルと別れ、大きな鏡が並んでいる部屋へ入る。
生徒がちらほら残っており、その中に見覚えのある顔が。
『いた!』
「こーーーらーーー!!」
「げっ!! 見つかった!」
「てめー!! 待つんだゾ!! 1人だけ抜け駆けはさせねーんだゾ!」
「待てって言われて待つわけないっしょ! お先!」
「1人だけずるいんだゾ~! オレ様だってサボりたいんだゾ!」
『こら! そういうこと言っちゃダメだから!』
自分だけ罰を受けるのが嫌だから必死にエースを捕まえようとしてるのかこの子は。
エースを捕まえるために走り出すが間に合いそうにない。
「どいたどいた!」
「えっ、お、おうっ!?」
エースの先に1人の青年が見え、協力を仰ぐことにした。
『その人、掃除をサボる悪い人です! 捕まえてください!!』
こう言えば協力してくれるはず。
青年は一瞬驚いて固まったが、協力してくれるみたいで鏡の前に立ちはだかった。
しかし、どの魔法でエースを拘束しようか迷っているらしい。
このままではエースに逃げられてしまう。
痺れを切らしたグリムが叫ぶ。
「何でもいいからぶちかますんだゾ! 早く!」
急かされた結果、青年が出した魔法は、
「ええい! 何でもいいから、いでよ! 重たいもの!」
ドカンッ!
目の前が一瞬明るくなった後、鈍い音とエースの悲鳴が辺りに響いた。
「ぐえぇっ! ナンダコレ!? 鍋!?」
「ぎゃははは! 見てみろ、ウテナ!」