第2章 夢ではなかった
「まさかアイツ、逃げたんじゃないだろーな!」
『ありうる……探しに行ってみるか』
もし逃げているのなら許せない。
「罰をオレ様たちだけに任せて逃げるなんて許さないんだゾ! 行くぞ子分! エースをとっ捕まえて窓掃除させてやるんだゾ!」
『お~!』
捕まえたら80枚は拭かせてやるからな。 覚悟しとけよエース。
「オマエ、なんか顔が怖いんだゾ……」
『不真面目な人には厳しいからね』
エースがまだ学校の中にいるのを願って、一年生が使う教室へ探しに行く。
「オラァ! エースはどこだ! 隠し立てするとただじゃおかねーんだゾ!」
勢いよく扉を開いて怒鳴り込んだグリムだったが、教室の中は静寂に包まれていた。
「……って、もう誰もいない~!?」
『最後の授業が終わってから結構時間経ったからね……』
「いいや。 私がいるよ」
「ふぎゃーー!!」
『ぎゃあーー!!』
突然喋りだした絵に危うく心臓が止まりかけた。
声の主は、立派なシルクハットとあご髭もった紳士の肖像画。
「なんだい? しゃべる絵画なんかこの学校じゃ珍しくないだろう? 肖像画には口があるんだから、お喋りもするってものさ。 普通のことだろう?」
いや、普通じゃなけど……魔法の力ってことにしておこう。
「それで? 君たちは誰かを探してるのかい?」
エースの特徴を伝えると、肖像画の紳士は彼のことを覚えていた。
しかし、残念なことにエースは少し前に寮へ戻っていったという。
『エースの奴逃げたな!』
「急いで追いかけるんだゾ!」
怒りに任せて教室を出て行く時に、肖像画の紳士が寮への行き方を教えてくれた。
「寮への扉は東校舎の奥だよ!」
『ありがとう!』
「助かったんだゾ!」
エースの居場所が分かったのはいいが、今日初めて入った建物の中で迷わないはずもなく……
『ここどこ!?』
「広すぎて迷ったんだゾ……」
放課後だけあって辺りは閑散としている。
諦める訳にはいかないので、道を聞くために誰かいないかと必死で辺りを探す。
『あ! あそこに誰かいる』
廊下の少し先に人影が見える。
『すみません!』
「はいっ、どうかしましたか?」