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蒼き龍の逝きる意味

第7章 第7章 休養中編


<焰side>

俺は、他人の名を親しげには呼ばない。
理由は特には無いが、他人の名を気安く呼ぶ事は
しないようにしてきた。



だが、例外が居る。
その例外の人物が俺の親、父・篝蒼治郎。
しかし、彼は俺の本当の親ではない。
俺を疎み、憎んでいた実の両親から引き取り
蒼治郎さんは俺を「自慢の娘だ」と毎日言っては
俺を撫でてくれた。

彼は俺にただ普通に生きる道と、
命を懸け鬼と戦う鬼殺の道の2つの選択肢を
与えてきた。
俺は鬼殺の道を選び、蒼治郎さんに
稽古をつけてもらった。

ただひたすらに刀を振り、血反吐を吐いても、
豆が潰れても、鍛錬をやめなかった。

何度も怒られたけど、それでも強くなりたかった。
日に日に体を起こせなくなっていく蒼治郎さんを
世話しながら、俺は最終選別に向かった。

最終選別も合格し、蒼治郎さんの元へ
戻った。
……けど、気付くにはもう遅過ぎた。




蒼治郎「……焰ァ、よく戻ったなぁ。
俺ァ嬉しいぞ。自慢の娘だ。」

そう言って笑う蒼治郎さんは、
最早…死ぬ一歩手前だった。
顔は青白く、頬は痩けていた。

蒼治郎「ほら、こっちにおいで。
お前にはちとデカいが、俺の羽織だ。」

肩に掛けられたその羽織は、俺を隠してしまう程
大きく、慣れ親しんだ蒼治郎さんの匂いがした。
体が辛いのか横になる蒼治郎さん。

何故今、俺に羽織を渡したのか……。
それを問いかけようと顔を上げる。

蒼治郎「………焰ァ、俺はいつでも
お前を、見守ってる、し…愛してるよ。」

初めて会った時と同じ、変わらない笑顔が
そこにはあった。
そっと握られた左手には、慣れ親しんだ温もり。
だが、力強くは握れないらしい。
いつも以上に、力が弱い。

『まさか…』と思った。
嘘だろうと、思った。

しかし、そのまさかだった。
俺の手を握っていた手は力が抜け、
俺の手からすり抜けて、畳の上に落ちた。
瞼は閉ざされ、蒼治郎さんの全集中・常中の音が
パタリと止まった。
…蒼治郎さんは動かなくなった。
その瞬間は案外あっさりと、朝日と共にやってきた。

"蒼治郎さんは死んだ"のだと、すぐに理解した。
けど、泣くことが出来なかった。
泣けなかった……。
そしてその時から、俺は朝日が嫌いになった。
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