第2章 有り触れた日常
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勉強も出来ない、訓練の成績も良くない、ドジでノロマで馬鹿なにも得意な事があった。
それは、歌う事。
はいつも夕食時、早めにご飯を食べる。誰よりも早く食べ終わった彼女は、自分のギターを持って、食堂の中央に座った。
それを見て、訓練兵達は他愛もない話を止めて、彼女の方に目を向けるのだ。
切なさを含むギターが音を奏でて、彼女の綺麗なソプラノ声が今日も食堂に響く。毎日歌う曲のテイストは変わるが、彼女の甘い歌声は誰もを酔い知らせた。
いつの日か皆、疲れきった一日をこのの歌で締めるのを楽しみにしていた。
甘い恋愛ソング、家族を想う歌、時にはテンポの早い元気になる曲。プロと並べても見劣りしないほどの歌唱力はやはり訓練兵の中でも人気だった。
特に、ゆったりと流れるバラードの恋愛ソング。掠れるように歌うの声が凄いと誰もが噂する。
厳しく辛い訓練も、毎晩彼女の歌を聞けばどうでも良くなる気すらした。そんな気を錯覚させる程、の歌は素晴らしいものだった。
『の歌ってやっぱいいよな、』
『いつもあんなにドジで何も考えてなさそうなのに、歌う時になると色っぽいよな。』
ギターの弦に滑らせる細く長い指、手元を見るために伏せた長いまつ毛。サラリと落ちる黒い髪と、滑らかに動く唇。
普段は1ミリも感じさせないその色っぽさに、男女問わず殆どの訓練兵が取り込まれていた。
ベル「の歌はやっぱり感動するな、ライナーもそう思うだろ?」
ライ「…そうか?」
ベル「感動しない?」
ライ「上手いとは思うけど」
から少し離れた所でベルトルトと一緒に夕飯をとっていたライナー。ベルトルトにそう話しかけれたので、ライナーは横目で彼女を見つめた後、不満そうに目を逸らす。
ライナーは訓練兵がうっとり見つめる先が心底気に入らず、パンを思い切りかじった。
ベル「…ライナーはの事好きなの?」
ライ「は?」
ベルトルトからの唐突なその問に、ライナーから間抜けな声が飛び出た。
ライ「んなわけねえだろ。どうしてそう思うんだよ。」
ベル「ライナーのを見る目が、優しいから?」
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