第4章 ある日のハートの海賊団
「悲しくないって、お前…」
そんな訳ないだろ、と言わんばかりにシャチが眉を顰める。…辛いから死のうとしたんじゃないのか?まともな飯も食えずに満腹まで食べた事もないのが悲しくないのか?
シャチの顔を見ていたみのりが不意に俺の顔を見る。一瞬口元がにやけたように見えて何を考えてるんだと思っていると嬉しそうに笑いながらみのりは言った。
「だって皆と食べるご飯が美味しくて楽しいんだから、昔の悲しい事なんかどうでもいいでしょ。そりゃあまぁたまに面倒臭いしやっぱり死んでおこうかなぁなんて思うけどさ…」
まだ自殺願望は消えないらしいが、それでもみのりは喋る。聞いてる俺達が呆気に思う程に嬉しそうに。
「死ぬ理由もないなら、悲しいと思う理由がここにはないんだから仕方ないよね」
シャチが何だよもうお前!とか言いながら半泣きでみのりの背中を叩く。感動してるようだし、俺も少しは感動したかった。齧り続ける干し肉さえなければ。
「…まぁ、良い。いずれ腹一杯で残すのが当たり前にしてやる」
「え、勿体無い。破裂しても食べる」
「てめぇ少しは空気読んでありがとうで済ませれねぇのか」
「ちょっと干し肉を奪うのはやめなさいって、お腹減ってるって言ったじゃん!」
ちょっと良い事言ってやったつもりなのにこいつは…。呆れながら干し肉を返すと、たかが干し肉を奪い取られる。そして取られない為かそそくさとその場を離れた。どうやらさっさと空腹を解消したいらしい。
「…おいシャチ」
「は、はい?」
「全員で協力して、絶対にあいつの好物を探れ」
「あいあい、キャプテン」
その後、1年近くかかっても好物を断定出来ずにいたある日。ふとみのりからの衝撃発言。
「船にいる間はパンが食べられないから辛いなぁ…折角の好物をローが嫌いなんて運が無い」
そりゃ誰も試さねぇな…俺が嫌いで船に置かねぇし、目の前で食べる機会もない。ここ1年の苦労は何だったのかと皆で苦笑いをする中、みのりが更に悔しそうな顔で言い放つ。
「梅干しも好きなのにローが嫌いなんだけどさ、私の好物を嫌いとか実は嫌がらせじゃないの?」
お前の好物を知ろうとどんだけ頑張ってたと思ってんだ!!ただ、その後はパンと梅干しを船に持ち込んでも良いようにした。惚れた弱味だ…仕方ない。