第5章 冷たい水 (深海奏汰)
「ぼくは、『おゆ』がにがてです。あつくて、ぷか、ぷかできない。やっぱり『みず』はつめたいのが、きもちいい」
『気持ちいいって……この真冬に水浴びしてたら凍死しちゃいます!!』
冗談じゃなく、本当に!!と彼を説得していると一筋の涙が零れ落ちた。
「………どうして『なく』んですかアリスさん?」
『泣いて…っ、ないです』
「……………ないてますよ?」
そっと私の頬に手を添えて来る彼の手にビクッと身体が震える。とても冷たかったからだ。
『………怖かったんです』
「……どうして…ですか?」
涙目になっている私の頭を優しく撫でてくれた。
一つ年上の先輩。奇妙な行動ばかりおこして発言もおかしくてとても年上には思えなかったけど、今こうして私の頭を撫でてくれる彼は年上なんだ。と実感できた。
彼なりに心配してくれたんだろうかと思っていると彼はニコッと微笑んだまま私の手を掴んで「いっしょに『ぷかぷか』しましょう」と言ってきた。『へ?』と間抜けな声を出すと彼はそのまま私の身体を抱え上げ一緒に真冬の噴水の中へと飛び込んだではないか。
「あなたといつまでも……♪ ぷか、ぷか……♪」
『きゃー!!!???つ、冷たい~~~っ!!』
急いで噴水の中から出ると服が身体に張り付いてきて、ガタガタと震えだした。
コロス、絶対にコロスと心の中で呟いていると噴水の中からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「えへへ……♪アリスさんかわいいです」
ガタガタと身体を震えさせながら涙目で睨むと彼の頬がうっすら赤らんでいるのが見えた。
おっとりとした不思議っ子などではない、この人は変人でドSだ。
『しぬ……っ、さむくてこごえしぬ』
「えへへ……♪きもちいいですよね」
その場でガタガタと震え、両手で身体を掴んでいたら彼は私に抱き着いてきた。
ぎゅーっと私の身体を抱きしめる彼の身体は冷たくて、でもどこか暖かい。
冷たい水が頬を伝うと彼はぺろと舌で水滴を舐めた。
『~~~っ!』
「まっかになりましたね♪」
くすくすと微笑む彼が水に濡れてキラキラと輝いているように見え、くらっと目眩が、……した。