第1章 別府太郎の話【完結】
「お前ら、さっさと食え。食ったらとっとと片付けろ」
食事の時間は決まっている。教師の声に蜘蛛の子を散らすように皆戻っていく。
「別府別府、名前教えてよ」
それでも気になるのかコソコソと女子が食い下がっていた。
「三年の、先輩」
「うそっ!」
別府の答えに女子が息を飲んだ。そして男子もザワザワしだす。
「え? 誰、知ってるのか?」
「ありがとう別府、すっきりした」
誰の事だか全くわかっていない八軒はキョロキョロと見渡すが、女子達はさっさと戻ってしまう。
「おい、西川は知ってるか?」
「名前は知ってるぞ。つーかハチは見た事あると思うけどな」
群衆が引き、ようやく残りのおかずを食べる八軒と西川だが、八軒には全く覚えがない。
「会ってる?」
「食品科学科三年の先輩。稲田先輩とかとたまにいるから八軒も会ってるはず。ほら、背が高くて髪を後ろで一つに束ねて三つ編みにしてる人」
「この間馬術部に遊びに来てたよね。豊西先輩と話してた人」
必死に思い出していると、食器を片づけに横を通った御影がさらにヒントをくれた。
「……あぁ、あの人か。前に馬術部にも遊びに来たことがある。へぇ、先輩って言うのか」
そこまで聞いて、ようやくと思わしき女生徒を思い出す。
「でも、彼女ができた『かも』ってのはどういう事だ?」
部屋に向かいながら気になった部分を質問する。三人の周りには他の男子もおり、無言だが皆耳をそばだてていた。
「何ていうか、告白されたんだけど。俺ほとんど先輩と話したことないし、顔と名前くらいしか知らないんだよな」
別府が言うには今日の放課後に呼び出されたらしい。