第1章 別府太郎の話【完結】
「いただきま~す」
今日も実習や部活でクタクタ。寮生達は掛け声とともに白米およびおかずを胃にかっこんでいく。
「やっぱり当番実習の後は余計に腹減ってるよな~。あれ?」
そんな中、ふといつもの様に食べていた八軒は隣に座る別府の異変に気付いた。
「どうしたんだ別府。いつもより食ってないな」
「今日は好きな奴だって朝から楽しみにしてただろ」
反対に座る西川も怪訝そう覗きこんで見ていた。
実際、食べてはいるが普段と比べて明らかに食の進みが遅い。
「悩みでもあるのか?」
部屋にいた時もため息が多く、気になっていた八軒の疑問は確信に変わる。
「悩みって言うか……」
「言ってみろ、言った方が楽になるぞ」
口ごもる別府に西川が刑事の様に詰め寄り低く囁いた。
「実は……彼女できた、かも」
「ほぉ」
「え、マジで?」
ピクリと眉を動かしただけの西川に対し、八軒は持ってる茶碗を落としそうなくらい驚いた。
何せ別府の印象は食べ物を中心に動いていると言ってもいいくらいである。その別府の口から彼女という単語が出たこと自体が信じられない。
「はぁ?」
「どういうことだべ」
「彼女? 別府に!?」
「ちょっと詳しく聞かせろ」
八軒の感想は周りの寮生も同様だったようで、それまでざわついていた食堂がシンと静まり返り、次の瞬間三人の周りに一気に群がった。
「何だよお前ら!」
「うるせぇ、おら吐け。どういう事か教えろ」
周りの圧力に恐れを感じるが、別府はいつもの表情でうーんと唸っている。
「学年は?」
男子に混ざって恋話に興味のある女子もいつの間にか寄ってきて質問を始めた。
「……えと、三年」
「何だと! 年上のお姉さまからよ羨まし、いやけしからん!」
「うるさい男子! あんたらがそうやって茶々入れるから話が進まないでしょ」
「野郎共も恐ろしいが、こういう時の女って怖~」
「奴らは恋話が大好物だからな」
別府の一言一言に頭を抱えて唸る男子とそれを一喝する女子。
その様子を少し離れて頬を引き攣らせる八軒に、西川は悟ったように首を横に振る。
「あれ、助けなくて大丈夫なのか?」
「そろそろ時間だし大丈夫だろ」
「時間? あぁ、そういう事か」
とても自分では助けられそうにない。西川の指す方向を見て八軒も納得した。