第15章 夏祭り
翌日夜、風呂上がりに廊下を進んでいると、瑠火に手招きされてひとつの和室へ入る。
「どうしました?」
「さんの浴衣、好きな物を買った方が良いと思っていたのだけど、今日いくつか反物が見つかってね」
そう言って、5本もの筒状に巻かれた反物を並べる。
白、黒、藍…色とりどりの模様が散りばめられた反物。
上質かつ洗練された布に、溜息が出る。
「もし気に入った物があったらわたしに縫わせて?」
「こんなに素敵なもの…わたしに良いんですか?」
「当たり前じゃない。
初めて出来た娘だもの」
娘
その一言に胸が暖かくなる。
煉獄家に受け入れて貰えたんだと改めて喜びを噛み締める。
「前はさんにも会えなかったし、杏寿郎や千寿郎にもまだ小さかったのに何もしてあげられなかった。
だから、浴衣の用意とか、お祭りに行くとか、些細な事が嬉しいのよね」
「瑠火様…いえ、お義母さん!」
そう言ってギュッと瑠火に抱きつく。
「まあ!」
「沢山色んな事しましょうね!」
「ふふっ、ええ!」
とて前は短い人生で、鬼殺に追われ、同じ年頃の女の子の様に行事を楽しむ余裕などなかった。
皆、今世でそういう些細な幸せを感じるために産まれてきたに違いない。
母娘、あれが可愛い、これが可愛い言いながら浴衣を選んでいった。