第15章 ただ君の寝顔に【千景】 普通夢
「……んっ、卯木先輩……」
「起きてるなら、起きろ」
「うん……うつ……」
俺はぷッと吹き出して微笑んでしまった。
一体どんな夢を見ているやら、上司の俺の夢なんて。少し眉をひそめるいづみの額に指を入れ、ぐりぐりと押す。
しかし、いづみは起きない。
無防備な奴だ……
何となくその光景を見ていると、何だかさっきまでの機嫌が薄まっていく。
少し経つといづみの匂いが鼻に着くのが分かった。ちょっと甘いようなシトラスの香り。
甘ったるもなくて、いい匂いだった。
そしてまたいづみの身体が電車の揺れで、反対へと行こうとする。
俺はまたがっしりと肩を抱き、引き寄せる。
いや、そろそろ起きろよ
まだすぴすぴと寝ている寝顔にトクンと胸が打たれる。その胸の振動に俺は違和感を覚える。
無防備で、何とも言えないこの寝顔が好きになっていた。
「……そろそろ起きないか」
俺はいづみに声をかけるも、完全に寝入ってしまって、身体も自分では支えきれていなかった。まぁ、あんなにプレッシャーがある取引は初めてだっただろうし、滅多に会社に居ない俺とほぼ打ち合わせなしで行く取引だったしな。緊張の糸が途切れるのも分からなくはないが。
仕方ないので、今度は俺に引き寄せたままにしておく。
周りから見たらスーツ姿の2人が電車の中で肩を寄せあってるって、どんな光景でどんな風に思うのだろうか。
……でも、正直、この時間が1分でも長く続けば良いと思ってるのも事実だということに気がつく。
そう考えると何かドキドキしてきたな……
鼓動は徐々に早いものへと変わる。
だとしたら、俺はいづみに一体いつからこんな感情を……
「んっ……はっ!卯木先輩!」
考えていると急にいづみが目を開ける。
俺はびっくりするも、いづみも俺との近さ、そして肩にある俺の手に驚いていた。
「わわっ、失礼しました!仮にも先輩の前で」
「大丈夫だよ、ずいぶん疲れてたみたいだな」
「……あ//あの、先輩、この手は……」
起きても尚、俺の手はいづみの肩を掴んでいた。と言うか、どれだけいづみは赤面してるんだろうか。顔はもう真っ赤で凄く取り乱していた。
「あぁ、ごめん。身体フラフラしてたみたいだったから支えてたんだ」