第9章 想ってる【万里】 甘夢
「きゃっ」
そのままいづみはバランスを崩して万里の胸へと受け止められる。
「ちょ、万里危ないでしょ」
「危ないのはどっちだよ」
「え?」
万里はいづみの耳元で囁く。
「俺以外の男を家に連れ込むなんて」
その一言で臣と太一の会話を思い出す。酷い目に合う可能性があること、彼氏より先に他の男を家に連れ込むということ。
今やっと男の気持ちを少し理解した気がしたいづみ。
「でも、臣くんと太一くんだよ?万里の仲間でしょ」
「例え俺の仲間だろうが男は男だろ」
「そうだけど……」
「太一から連絡貰った時は気が気じゃなかった。太一から理由は聞いてたから理解したけど、それでも俺より先に太一や臣を家にあがらせたことがすげームカつく」
「……ごめん」
少し沈黙が続く。
「……うっ……」
その沈黙が怖かったのか、やっとどんなことをしたのか全て理解したのか、いづみは涙ぐんでいた。
「だー!!もう、泣きてぇのは俺の方だ!」
いづみの手首から万里は手を離し、いづみの顔を両手でグイッと持ち上げる。
「だって……万里も忙しいし、演劇がやっと夢中になれるって言ってたし……ファンクラブの子たちに恨まれちゃう……だから万里の迷惑だもん」
「は?そんなこと気にしてたら俺はお前に告白なんかしねぇし、走ってなんか来ねぇよ」
確かに……といづみは頷く。
「……ぷっ、いづみのその顔変な顔笑笑」
「うぐっ!は、離して!!うーん!!」
いづみは挟まれた頬を万里の手から引き剥がそうとするが、びくともしなかった。
「ほら、男の力には適わないだろ」
「うん……」
「そういうことだよ」
「ん?どういうこと?」
そのまま万里はいづみの顔に近づきキスをする。
「こういうことされても、抵抗出来ないだろ」
「……て、抵抗しなかっただけだもん!」
「何て強情な……」
そして2人は笑い合う。
もっと距離が縮まるのはまた別のお話。