第8章 特別扱い【万里】 切夢
それはいつもとは違う行動。そもそも、テスト勉強で19時……こんなに遅くなることは今までには無かったんだけど、つい、気合いが入っちまったのかもな。
俺も普段なら付き合ってられねぇとか言って誰かのテスト勉強何か付き合わないし、こんな気合いが入ることもない。
「ここで何かあっても、俺が罪悪感だろ」
「むー!すぐそういうこと言うー」
急いで教科書を鞄に閉まって、身支度を整え、教室を後にする。少し急ぎ足のいづみも珍しい。急にいづみはくるっと振り返って
「今日も付き合ってくれてありがとうね」
そんなことを真正面から言われると思わなくて不覚にも心臓が鳴る。
おうよ、と空返事をする。
「ぁ、今ドキッとした?」
「する訳ねぇだろ」
「ちぇー」
そしていづみの家の側まで来ると1人の男が玄関先で待っていた。
「いづみ」
「ぁ、パパ」
パパと呼ばれたその男の人は玄関前で腕を組んで待っていた。そしていづみが呼ぶと振り返る。
「何時だと思ってんだ!!」
何も聞かず怒鳴り散らしてきた。
いづみもびっくりして制止しているが俺もその声に驚いた。
「8時……」
「家の門限忘れたのか!」
「……」
いづみは黙り立ち尽くしている。
高校三年生にもなって7時半の門限とか厳しすぎだろと俺は思っていた。所詮他人の家族だから首を突っ込まないと思ったが、その怒声は俺にも飛び火した。
「しかも、何だ!このチャラチャラした男は!!こんな奴と友達になったなんて聞いてない!」
「チャラチャラなんてしてないよ!何でいつもそう見かけだけで判断するの?!それにパパに摂津くんのこと話した覚えはないから当たり前でしょ!」
「実の親に向かって何て口の利き方するんだ!」
そして、男の出した手がいづみの頬目掛けて飛ぶ。俺はその手首ごと掴んでやった。
「……あの、他人の家族のことだからあんま口ツッコミたくないんすけど、娘さん叩くお父さんってどうなんすか」
ギロっと目を合わせるだけで、その男は掴まれていた手を引っ込める。
いづみの目は一瞬瞑っていたが痛くないことと、俺の発言にゆっくりと目を開けていた。
「摂津くん、ごめん!!大丈夫?怪我はない??」