第8章 特別扱い【万里】 切夢
俺の身体の横からひょこっと顔を出すと男に向かって発言する。
「この人は同じクラスの人!こんなチャラそうに見えるけど、とっても優しい人なんだよ!この時間まで私に勉強を教えてくれてて、いつもより遅くなったから送ってくれたの!!そんな親切な人にどうしてそんな態度取るのよ!そんなパパ嫌い!!」
「そ、そんな男が良いのか……」
そんな男って……。見た目のことは否定できねぇけど。
「それに摂津くんは首席を取るくらい頭がいいのよ!他にも運動神経だって私と違って抜群なんだから!」
そうやって言葉は強そうにペラペラ言ってるも、俺の腕をがっしり掴んで震えていた。
ふんっと効果音が付くように男は家の中へと消えていった。俺のねーちゃんとはまた違う意味で面倒くさそうだった。
「……ごめんね。摂津くん。教えて欲しいって言ったのは私なのに、嫌な思いさせちゃったね」
「……気にしてねーよ」
俺は後ろを振り向くことが出来なかった。
いづみは俺の腕を掴んでポロポロと泣いていたのだ。
「お父さんいつもあんなんなの?」
「今日はまだマシ……」
「まじか」
「だって摂津くんが居たから……」
「……それ、理由になってんのかよ」
「うん」
いづみは泣き止まず、俺は何となくまだ後ろを振り向くことが出来ずにいた。こういう時恋人とかだったら抱きしめて慰めるくらいすんだろーが、俺はただの友達……?何となく胸が苦しくなった気がした。こんな苦しくなったのなんか初めてだった。
「…………次からも一緒に居てやんよ」
「え、それ……どういう意味」
腕からやっと重っ苦しいのが取れた。
俺も首だけ振り返って意地悪く笑ってやる。
「ほら、お父さんにまた怒られんぞ」
「……帰りたくない」
「もっと怒られんだろ」
「知ってる……」
「また、明日な」
「うん。また明日、明日も教えて下さい」
「あたりめーだ」
いづみは腕からスっと離れ、俺に手を振って家へと消えた。俺も釣られて手を振り返す。
「……何で、手振っちまったんだろ////」
俺は1人取り残され恥ずかしくなり、駆け足でいづみの家を離れた。
きっとお互いに好きと気づくまでにはまだ時間がかかる。
2020.7.24 執筆完了