第5章 だって、初めてだもの【綴】 甘夢、やや切なめ
いや、完全にどっちも悪すぎだろ。
俺、完全に被害者やん。
「……つづるんといづみちゃんって付き合ったのにまだキスしたこと無かったんだな」
うっ……とした顔で綴は下を俯く。
「いづみちゃん、いつも頭撫でて貰ったり抱きしめてはくれるって言ってたけど、キスとかしてくれないから、実は遊びなんかじゃないか、でも綴くんに限ってそれはないと思うから、魅力がないだけなのかもって悩んで、ぶらぶらしてた俺を見つけては喫茶店に連行してその話をぶつけられた訳。もちろん俺も否定したけど」
「そ、それは……」
「ちゃんと可愛いって伝えてる?」
「……」
「好きって伝えてる?」
「……」
「いづみちゃんは妹じゃないんだから」
「……何も言えねぇっす」
俺はまたため息をついた。
そんなことじゃ他の奴に取られるよとは伝えるのはやめておこう。いづみは女性らしい雰囲気やギャップで、結構男子からは人気だった。何でいづみちゃんが綴を選んだかはよく分からないけど。
「高校生だからとか、高校生とだからとか気にしてるん?」
「……なんて言うか、そういうのもあるんですけど」
「傷つけちゃうとか、そういうの気にしてんだろ」
「はい……」
「傷つかないって、長い付き合いなんだからそのくらいわかってやりなよ、つづるん」
「うぅ……」
「そうと決まったら、行きますか」
「え。どこにっすか」
「そんなの決まってるっしょ、高校に決まってるっしょー!何か急にテンアゲだわー!」
スマホでポチポチといづみちゃんにLIMEすると、寮を出て綴と母校へと向かう。
まだ昼過ぎで午後の授業はまだ残っているはずだ。
「ちょ、まだいづみ授業中すよ!」
「大丈夫ー大丈夫ー、いづみちゃんだからすぐ来るってー」