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マイハート・ハード・ピンチ

第10章 海岸線とテトラポッド


そんな珊瑚の内省を、知ってか知らずか、琉夏はいつもの飄々とした態度の延長で、珊瑚の右手に手を添え、やさしく握り、どんな言葉よりも雄弁な瞳で、彼女をじっと見つめた。その瞳にはキラキラとした願いのようなものが輝いているように珊瑚には見えた。

「…なあ、今からでも、乗り換えてもいいんだよ?俺に」
珊瑚は、彼の瞳や唇や、言葉から発される熱量に慄き、身をのけぞらせる。
「ま、待ってよルカちゃん。だいたい、そんな都合の良いこと、できないよ」
珊瑚は泣きそうだった。自分が好きなのは聖司だが、琉夏は彼女にとって大切な幼なじみだった。こんなことで気まずくなって、大切な友人を失うのは、すごく悲しい。
だからといって、今、自分が彼にどんな言葉をかけてやれると言うのだろう。珊瑚は次の言葉を考えあぐね、今にも泣きそうな顔で俯いている。

すると、琉夏が「あ〜はいはい」と芝居がかった様子で珊瑚の頭をチョップした。
「冗談だってば。珊瑚がセイちゃん意外に理解者がいないなんて言うから、ちょっと意地悪したくなっただけだよ」
ぽんぽん!と大袈裟に肩を叩かれる。
「ほ、ほんと…?」
珊瑚は両目にいっぱい涙を浮かべながら、琉夏の様子を伺っている。
「うわーごめんってば。泣かないでよ〜」
琉夏は焦った様子で珊瑚を慰める。
「ルカちゃんは、いつも意地悪」
珊瑚はちょっといじけてそっぽを向いている。
「お願い。機嫌直して?俺、いまならなんでもするよ」
両手を合わせて懇願する琉夏のほうを、珊瑚は疑わしげに見ている。
「じゃあ、もう意地悪しないって誓って」
「ええ〜…じゃあ、今後1ヶ月はいじめないって、誓うよ」
「もうっ」



その日の夜。
コウから翠に一通のメールが届いた。
『なあ、家に帰ってくるなり、琉夏が泣きながらホットケーキ食ってるんだけど、お前なんか知らね?』
翠は「ルカちゃんもそういう気分の時があるのね」としみじみした。
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