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マイハート・ハード・ピンチ

第10章 海岸線とテトラポッド


「はは。びっくりした?」
琉夏はいつも通りの声のトーンにもどったが、喜怒哀楽の読み取れない表情をしている。珊瑚は、昔から琉夏がよくこういう表情をするのを知っていたし、それをみていると、なぜだかいつも胸の奥がチリチリと痛むのだ。
「うん…ちょっとね。わたし、どちらかというと、ルカちゃんは翠を好きなんだって思ってた」
琉夏はことあるごとに、いつも翠に甘えていた。珊瑚には、今も昔も、いつもちょっかいをかけてばかりだ。こんなわかりやすい罠に、自分がまんまとハマっていたなんて、ちょっと笑える、と珊瑚は思った。
「ううん、翠を好きだったのはコウの方。あっ…これはオフレコね?コウにバレたら、たぶん俺、殺されちゃうから」
「しぃっ」と唇の前で人差し指を一本立てて、悪戯っぽく笑う琉夏を、珊瑚は半ば呆れた様子で見ている。
「はぁ…」

二人の間に気まずい沈黙が流れた。珊瑚は、なぜこのような状況になってしまったのだろう…と後悔する。少なくとも、自分のせいである。琉夏の気持ちに気づこうともしなかった自分の。
そして、聖司とのことだって同じだ。結局は自分のことしか考えていなかった。自分で勝手に裏切られたような気分になって、彼の悩みに寄り添おうとしなかった。それで一体なにが「理解」だ。とても、馬鹿げている。
幸か不幸か、彼女は徐々に自分の状況を俯瞰してみる冷静さを取り戻していた。
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