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マイハート・ハード・ピンチ

第10章 海岸線とテトラポッド


二人はテトラポッドに腰掛け、暮れゆく夏の海を眺めていた。
琉夏は買ったばかりのレモンティーを、お手玉のように弄んでいる。珊瑚はキンキンに冷えたスコールの蓋をプシュッと開けた。
「珊瑚さ…セイちゃんとなんかあったでしょ」
「…」
「図星かぁ〜」
琉夏は膝に頬杖をついて、遠くを見た。
すこしして、珊瑚が口を開いた。
「聖司さん、自分が音楽の道に進むべきかで、悩んでいるみたいなの」
ゆっくり、的確な言葉を探りながら、珊瑚は話し続ける。
「わたし、勝手に、聖司さんとはこれからも同じ景色を見て生きていくんだって、思ってた。ふたりともきっと音楽で生きていくから、お互いの一番の理解者として、ずっと一緒にいられるって…でも、そうじゃないかもしれないって思ったとき、すごく怖かった。わたしとあの人を結びつけているものがなんなのか、わからなくなって…」
海は凪いでいた。水面には波ひとつない。
穏やかな海が、ゆっくりと紺碧の夜空に呑まれていく。
「あの人を取り巻いている女の子たちと、自分は、同じようなものなんじゃないかって、くだらない嫉妬もするようになっちゃって…」
珊瑚はうつむいている。夜の、涼しい海風が彼女のうなじをかすめていく。
「聖司さんだけが、音楽家としてのわたしも、個人としてのわたしも、自然体で受け入れてくれる、唯一の人だって思ってた。だから、これからもずっと特別な関係でいられるって、思い上がってたんだ」
話しながら、珊瑚の顔はみるみる青ざめていく。
そんな珊瑚の両頬を、琉夏はパチンと両手で挟み込んだ。
「!?」
何をする気だ、と言わんばかりの珊瑚の非難のまなざしを無視して、琉夏は続ける。
「俺にだって、珊瑚のことくらいわかる。それに、俺だって自然体でお前を受け止めてやれる。だから、あいつだけがお前のことを理解してるなんて、それは思い上がりだ」
琉夏の顔は笑っていない。
「だって、俺はずっと前から、セイちゃんなんかより、ずううっと前から、珊瑚のことを見てきたんだもん。珊瑚は、俺の初恋の人なんだから」
「えっ…」
思いがけない告白に、珊瑚は瞳をまん丸にして驚いた。
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