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マイハート・ハード・ピンチ

第8章 演劇練習


「設楽」
渡り廊下で一人ぼんやりと中庭を眺めている聖司に紺野が声をかけると、聖司はさも「面倒だ」と言わんばかりに片眉を上げた。
「なんだ」
よほど機嫌が悪いのか、明らかに「近寄るな」と言いたげな態度でこちらを睨んでいる。が、ここで怯むほど、紺野と聖司も付き合いが短いわけではないのだ。
「芸事であんなに感情的になる設楽は初めて見たよ。らしくない」
紺野がいうと、聖司はすこし意外そうな顔をした。
気にせず紺野は続ける。
「君、珊瑚ちゃんにフラれでもしたの…?そんな、今にもトレープレフみたいに自殺しそうな顔して」
トドメのセリフだ。聖司は驚きのあまりしばし絶句していたが、すぐに不機嫌そうな顔に戻った。
「お前は本当に嫌味なやつだな」
そう言うと、聖司はため息をついた。もう、紺野には意地を張る意味がないのを悟ったからだ。
「まぁ、それは半分冗談として…。珊瑚ちゃんと何かあったのは確かみたいだね」
紺野の言葉に、頷くでもなく、否定するでもなく、聖司は中庭を睨みながら彼の言葉の続きを待つ。
「君はだいたい言葉が足りないから。伝えなくちゃいけないことを、きちんと言葉にして彼女に伝えてあげなくちゃ、かわいそうだよ」
紺野はそれだけ言うと、それじゃ、俺は行くね、と視聴覚室に戻っていった。
「…余計なお世話だ」
聖司は誰もいない中庭に向かってぼやいた。
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