第8章 演劇練習
八月も半ばのとある昼下がり。
この日は学園演劇の2回目の読み合わせ練習が行われていた。
がしかし、今現在、文化祭実行委員長こと紺野玉緒は、主役二人の凄みのある演技をハラハラと見守っている。
『今日、私は、この鴎を殺すような下劣な真似をした。あなたに捧げます』
聖司はそう言って、珊瑚の足元に、死んだかもめ、もとい、はばたき水族館の売店に売られている「かもめくん」の人形を捨て置く。
『まあ……どうして殺してしまったの?』
珊瑚は「かもめくん」を冷ややかに一瞥する。
はば学の「姫」と称される彼女の冷たい視線には、あの悪名高き桜井兄弟すらも震え上がるそうだ、と下級生の演劇実行委員がひそひそと噂をしている。
『いずれ遠くないうちに、私も、こんなふうに自分を殺すんです』
自分の演じる役柄になりきっているからこその迫真の演技なのか、はたまたそうではないのか、側から見ればわからない。
それほど、恋人に裏切られた小説家、トレープレフは聖司にはまり役だった。
その恋人、ニーナ役の珊瑚の演技も合わさればなお、二人の間には妙に高校生らしくない色香が漂う。
そのせいもあってか、練習が行われている視聴覚室前の廊下には、二人それぞれのファンたちが数人集まり、熱心に二人を見つめては、頬を赤らめている。
『……ちかごろのあなた、すっかり変わってしまったのね』
そもそも、今日、二人が視聴覚室に現れた時から違和感があったと紺野は思う。