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マイハート・ハード・ピンチ

第7章 花火大会にて


花火大会がクライマックスに近づくと、不意に嵐が翠のほうをまっすぐ向き、彼女の手を握った。
「来年も、一緒に見にきたいな。…その、今日風邪ひいて来られなかった奴も一緒に」
嵐は、鈍感ながらも、今日の翠のすこし寂しげな様子を見て、どうやら新名が来なかったことが関係しているのを勘づいているようだった。

翠は、嵐の温かくて力強い掌と、「来年は新名と三人で来たい」と言ってくれる彼なりの優しさが嬉しくて、少し涙が出そうだった。
確かに翠が恋しているのは嵐だが、それと同じくらい強い気持ちで、柔道部の三人で過ごす時間が、彼女にとってはかけがえのないもので、なにより大切だった。
翠が涙ぐんでいるのを見て、嵐は不思議がった。
「俺、泣きたくなるようなこと言ったか?…やっぱり今日のお前、ちょっと変だ」
目の前で女の子が泣くという状況に慣れていないのか、彼は少し慌てた様子で、巾着からハンカチを取り出そうとしている。
「ううん…違うの。嵐の言葉が、うれしかっただけ」
翠が笑うと、涙が一筋こぼれた。嵐はハンカチでそれを拭う。
「泣きながら笑うやつがあるかよ」
そんな二人の影を、夜空を彩る大輪の花が、色とりどりの光で照らし続けていた。

気がつけば花火は終わり、周囲の屋台も次第に後片付けをはじめている。花火を見ていた人の群れは一斉に駅に向かう。思わずはぐれてしまいそうな人混みだ。
「すごい人混みだから、翠、お前は一応俺の腕につかまってろ」
そういって嵐が腕を差し出す。翠は大人しく腕を掴んだ。
駅に向かう人の群の中で、小さな翠の身体は今にも押しつぶされそうだ。けれど、嵐のたくましい背中が、彼女が人にぶつからないよう道を開けてくれるので、とても頼もしい。こうしていると、やっぱり自分は、どうしようもなく嵐のことが好きなのだなと言うことをしみじみ考えてしまい、翠は、ハンドルの効かない恋心のやるせなさに、またしても泣き出しそうになってしまったのだった。
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