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マイハート・ハード・ピンチ

第6章 新名の葛藤


「…ごめん。こんなこと言って。でも、…翠さんが好きなのは……嵐さんでしょ。…俺じゃない」
新名の言葉に、翠は目を見開く。彼女は確かに、一年生の頃からずっと嵐を見てきた。彼を隣で支えたいと思った理由には、もちろん特別な感情がなかったわけではない。
だが、それをこんなふうに指摘されてしまうとは思わなかった。自分では、柔道部にいる間は、できる限りその気持ちを押し殺しているつもりだった。
そして、自分は新名から恋愛感情を抱かれていることを、薄々感づいていた。けれど、嵐とも新名とも、きちんと向き合って、仲良くしていれば、ずっと仲の良い三人組のままでいられると信じていた。

「俺は…アンタのことが、好き。でも、嵐さんとアンタの邪魔をしたいわけじゃない……だけど、こうやってアンタから優しくされると…辛いんだ。なんで、俺じゃないんだろうって…考えちゃうから…」
新名の声は震えていた。
「新名…泣いてるの?」
翠が不安そうに新名の顔を覗き込もうとすると、新名はバッと起き上がり、素早く手を伸ばしたかと思うと、翠の身体をきつく抱きしめた。とっさのことに翠は身動きが取れない。そんな翠を新名はお構いなしにぎゅうぎゅうと抱きしめ続ける。
「泣いてねえし!!アンタはほんとにわかってない!俺がアンタに抱いている気持ちは、こういうことなの!だけど、アンタが好きなのは…!」
そう叫んだ後、新名はぱっと身体を離し、憑き物がとれたかのようにしおらしくベッドにも潜り込み、そっぽを向いた。体が離れたとき、一瞬見えた新名の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「だから、俺のことをそういう意味で好きじゃないなら…もう、こんなふうに俺に優しくしないで。今日はもう、帰って…」

それからもう、新名は一度も翠のほうを見ることはなかった。
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