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マイハート・ハード・ピンチ

第5章 夏の庭、ホームパーティ


設楽邸の庭園の真ん中には、簡易的なステージが設けられ、その上にはグランドピアノが用意されていた。おそらくパーティーの途中で聖司が演奏をするのだろう、と珊瑚は思った。ピアノを取り囲むように、真っ白なクロスがひかれたテーブルや、シンプルなパラソルが設えてある。樹木にはランタンがいくつも吊り下げられており、テーブルの上のキャンドルと共に会場を暖かい光に包んでいる。
庭園の脇にあるプールの上には、いくつものピンク色のバルーンが浮かんでおり、客人の子供たちが水着姿になって遊んでいる。その様子を、二人はテラスの椅子に腰掛けて眺めていた。
「聖司さん、今日のパーティーで演奏するの」
珊瑚が訊けば、
「ああ。…実は、あまり気乗りしないんだ。でも、それを楽しみにやってくる父親の得意先もいるから…」
聖司は深くため息をついた。彼が最近、自分の将来について深く悩んでいるのを薄々感づいていた珊瑚は、そんな彼の様子を見て胸の奥がざわざわするような気がした。

大人たちがあつまり、食前酒が配られると、聖司がステージに現れた。
まだ演奏も始まっていないのに、周囲の人々は皆「ブラボー!」と叫んだり指笛を鳴らしている。若い女の子たちもステージの周りに集まり、「キャー!」と黄色い歓声を上げている。その子たちを、聖司が涼しい表情で制す。するとまた彼女たちははしゃいで飛び跳ねる。みんなカジュアルなパーティーであることを心得ているので、そんな様子を大人たちは楽しげに見守っている。珊瑚は、なんだかちょっと不愉快な気持ちになった。
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