第8章 鳥が籠から飛び立つ日
また会おう、と約束したあの日を最後に、理鶯さんは私の前に現れなくなった。
理鶯さんだけじゃない。左馬刻さんもだ。
待てど暮らせど、彼は来なかった。
その後聞いた噂によれば、理鶯さんや左馬刻さん達は、何かしらの理由で中王区とのゴタゴタに巻き込まれ、他のディビジョンの人たちも巻き込んで何か大変なことになっていると聞いた。
一体、理鶯さんは、どうなってしまったんだろう。中王区に目を付けられたら、ただじゃ済まされないと店長は言っていた。でも、それ以上の情報は一般市民の私たちには入ってこなかった。
もしかして――と最悪なことを考える。
その度に私はその考えを振りほどいて、理鶯さんの無事を祈った。私は1日たりとも理鶯さんを思い出さない日はなかった。
私はきっと、いつまでも籠中の鳥だ。働けなくなるまで体をすり減らして、お父さんが残した負の財産のために人生を捧げるのだろう。
でも、辛いことがあっても、理鶯さんからもらったネックレスを握り締めて、頑張って1日1日を過ごした。たとえ姿がなくとも、理鶯さんが傍にいてくれると思ったから。
――それからしばらく経った頃、私は突然、店長に呼び出された。店長は煙草を吸いながら、機嫌が良さそうな顔をしている。
「……咲、良かったな」
「は……?なんのことでしょうか」
何のことか分からなくて聞き返すと、店長は煙草の煙をふーっと吐いて、灰をとんとんと灰皿に落とした。
「お前は今日でお役御免だ」
お役御免……つまり、この店から追い出される、ということだ。