第8章 鳥が籠から飛び立つ日
「ど、どうしてですか?」
あまりに突然の解雇宣言に、私は動揺して体が震える。もしかして何か私がやらかして、どこか別の場所で働かされるのだろうか。
そんな私を見て、店長は立ち上がり、私の肩をとん、とたたいた。
「そんな顔をするな。いい話だ。お前の借金はチャラになったんだよ」
「え、……なんでですか?」
何が何だかさっぱり分からない。どうして私の借金がチャラになったんだろう。常連客の人が払ってくれたとも思えない。
「もう働く必要はない。荷物まとめて、出てくと良い」
あっさりとそんなことを急に言われても、心が追いつかない。
「誰なんですか、私の借金を払ってくれた人は」
恐る恐る聞き返すと、店長は僅かに口許を緩ませた。
「毒島メイソン理鶯さんだ」
――理鶯さん。私がずっと待っていた人。でも、嬉しさよりも、戸惑いの方が大きかった。本当に理鶯さんなのか、不安だった。
「本当に、理鶯さんなんですか?」
「ああ。俺もよく分からんが、中王区から、結構な額のお金を持ち出したとか言ってたな。ま、借金さえ払ってくれば、どうでも良いんだ。迎えも来てるから、行ってやれよ」
店長に言われるがまま荷物をまとめる。私は仕事上、裸でいることが多いかったし、店支給のものも多かったから、荷物という荷物は、あまりなかった。私服と化粧道具、いくつかの本などをまとめると鞄二つ分にしかならなかった。
でも私は本当に理鶯さんが迎えに来てくれたのが嘘のような気がして、夢の中にいる気がした。
目を開けると私はいつものように狭い部屋の中の天井を眺めているんじゃないだろうか。
半分思考が停止したまま、お店のエントランスへ向かうと、そこには、店長が1人で立っていた。
「……今までご苦労さん。もうここに来るなよ」
「お世話に、なりました」