第8章 鳥が籠から飛び立つ日
頭を下げて、店長に見送られながら、店の外へ出る。ずっと働いてきたお店から、こんな簡単に出られるの?本当に私はここから出て行くの?エレベーターで1階へ下りて、外に出る。
――でも外へ出ると、夢じゃないことが分かった。確かに、そこには理鶯さんが立っていた。迷彩服じゃなくて、私服で。
そして車道の端には、左馬刻さんの車が止まっていて、左馬刻さんが立って煙草をくゆらせている。
「……咲」
名前を呼ばれると、私はその場から動けなくなった。理鶯さんが、私を迎えに来てくれた……?本当に?
すると、理鶯さんがゆっくり私に近づいて来て、私の唇に、触れるだけのキスをしてくれた。
「待たせて、悪かったな」
「ど、どうして……」
「俺は、約束をしたら、何があっても絶対に守る、と言っただろう?」
理鶯さんは穏やかに微笑んで、私を抱き締めてくれた。嬉しくて、胸が一杯になって、何も言えなかった。
「もう全部終わったんだ。だから、一緒に暮らそう。咲」
私は理鶯さんの腕の中で声を上げて泣いた。そんな私の頭を優しく、大きな手で何度も撫でてくれる。
「どうして泣くんだ?俺と一緒は、嬉しくないか」
首を思い切り横に振る。そんな訳無い。ずっとずっと、この日を夢見ていた。叶わないだろうと思ったことが、今、叶った。
「おい、理鶯、咲。そろそろ行くぞ。通行人の視線が凄いことになってる」
私たちは顔を上げて、見つめ合い、微笑んだ。
籠の中の鳥は、今外へと飛び立った――。