第8章 鳥が籠から飛び立つ日
理鶯さんはかじっては私に口移しで食べさせてくれた。あんなに求めたのに、欲しい気持ちが溢れてくる。リンゴを食べ終わると、理鶯さんは私の頬に軽く口付けをしてくれた。
「お湯を沸かしておいた。昨日の場所で汗を流してくると良い」
「……ありがとうございます」
私は毛布を体に巻き、お泊まりセットから新しい下着と着替えを持っていくと、お風呂で汗を流す。昨日と違って、森の景色がはっきりと見える。
もう理鶯さんと会えなくなると、辛くて涙が出そうになる。次はいつ会えるんだろう。また会ってくれるだろうか。
私は服を着替え、身なりを整えるとテントの中へと戻る。理鶯さんは椅子に座って、ぼんやりと天井を眺めていた。
「理鶯さん。戻りました」
呼びかけると、私の方を見た。いつもの、あまり感情を表に出さない顔で。でもなんとなく、寂しそうに感じたのは、私が寂しいからだろうか。
「あの、すみません。外だと光が強すぎてやりづらいので、ここでお化粧しても良いですか?」
「……ああ、構わない」
私はベッドに腰をかけ、鏡を取り出して化粧をする。理鶯さんの前でしっかりと化粧をする気にはなれなくて、いつもより薄めにする。
「女性というのはそうやって化粧をするのか」
物珍しそうに、私が化粧をする様子を眺めている。
「……すみません、お見苦しいところを見せてしまって」
「いや、気にする必要は無い。咲は化粧なんてしなくても十分綺麗だと思っているが、人前に出るときのマナーのようなものなんだろう?」
真顔で綺麗と言われると、嬉しいけれど、照れくさくなる。理鶯さんの表現は、時に直球で、ドキッとさせられる。