第8章 鳥が籠から飛び立つ日
「ん……」
「咲、起きろ」
理鶯さんのキスで目が覚める。
明け方に最後のセックスをした後、私はいつの間にか眠ってしまったようだった。重だるい体を起こすと、理鶯さんはすでに迷彩服に着替えていた。
「すみません、眠ってしまっていたみたいです」
「無理させたからな、こちらこそすまない」
毛布で前を隠して体を起こすと、理鶯さんはリンゴを2つ差し出してくれた。
「ちゃんとした朝食がなくてすまない。この辺りでリンゴを見かけるのは非常に珍しいが、なぜか一箇所だけなっているのを見つけてな。いくつか取ってきた」
私はリンゴを受け取り、1つをそのままかじる。甘くて、疲れた体にしみわたっていく感じがした。
「美味しい。ありがとうございます」
朝日がテントの中に差し込んでいる。もう本格的に朝を迎えたようだ。
「あの……時間は?」
「8時だ。10時に待ち合わせすることを考えれば、あと1時間しかない」
もう1時間しかない。そう思うと眠ってしまったことを悔やんだ。もっと理鶯さんと一緒に居たかったのに。リンゴをもったまま俯く私の頬に、そっと理鶯さんの手が触れる。
「そんな悲しそうな顔をするな。また会えるだろう?」
「……でも」
顔を上げると、理鶯さんは私が持っていたリンゴを取り上げて、一口かじる。そのまま顔が近づいてきたかと思うと、唇が重なり、口移しでリンゴを送り込まれる。
「んっ」
「早くご飯を食べないと、間に合わないぞ」
理鶯さんの顔こそ切ない表情で、胸が締め付けられる。腕を伸ばして、強く強く抱き締める。
「もっと食べさせて下さい」