第2章 再会
「では、私も」
銃兎さんは遠くからじっとキャストを眺めて、その内の一人のところへ向かった。どうやら清楚で色白の女性が好みらしい。
「あなたにします。楽しませて下さいね」
残るは理鶯さんだけ。でも理鶯さんはじっと立ったままで、動こうとしない。
「どうなさいましたか」
慌てて店長が理鶯さんの所へ行くと、ああ、と頷いた。
「あまりこういう場面に出くわしたことがない故、少し戸惑っている」
その言葉に店長も戸惑っているようだった。ここに来る人たちは、こちらから何も言わなくても自分から喜んでキャストを選んであの扉の奥へと消えていくから。
「では、お店で人気のキャストを……」
店長がそう言いかけたところで、ふと理鶯さんと目が合った。
「ん、彼女は……」
もしかして覚えていてくれたのだろうか、と期待する気持ちが、私の鼓動をとくん、とくんと早く脈打たせる。
「ああ、あの子は、まだ20歳になりたての若い嬢ですが、テクニックはなかなかのもので――」
店長の言葉を聞いているのか居ないのか、理鶯さんは脇目も振らず私の方へ向かってきた。
「久しぶりだな」
ライトブルーの瞳が、私を見据える。覚えていてくれたことが嬉しくて堪らなかったけれど、気持ちを押し殺してキャストとしての営業スマイルを浮かべる。
「お久しぶりです。理鶯さん」
店長が目を丸くして私たちのところまでやってきた。
「これは驚いた、咲とお知り合いとは。以前どこかで?」
「ああ、以前一度だけ一夜を共にしたことがある」
それは正確には違う意味で、かなり誤解を生む言い方になっているけど、間違っているともいえないから私は訂正しなかった。
「これも何かの縁だ。小官は貴殿にさせてもらおう」
理鶯さんがふっと、口許を緩めると、私も嬉しくなって微笑む。
「よろしくお願いします」
頭を下げた後、理鶯さんを先導するように一緒にダークブラウンの扉の奥へと歩いて行く。
――あの時の約束を果たせるのかと思うと、今から体の芯がきゅう、と疼いた。