第6章 野原と小川と
でも時間は待ってくれない。限られた時間の中で、理鶯さんと出来るだけ一緒に居たかった。体を起こし、小川の傍まで歩いて行くと、理鶯さんの方を向いて大きく手を振る。
「理鶯さん、良かったらこっちに来てくれませんか?」
大きな声で呼びかけると、彼は立ち上がって、ゆっくりと近づいてきた。
「どうした?」
「いえ、私が眺めている姿を理鶯さんと共有したくて。一緒に居たいんです」
そっと手を伸ばすと、理鶯さんは目尻を緩めて、私の手を握ってくれた。
「お前が野原ではしゃいでいる姿は、まるで少女みたいだったな」
そう言われると、確かにひどく子どもっぽい振る舞いだったなと思って、恥ずかしい気持ちになる。
「悪い意味じゃない。自然体で、何も我慢していない、ありのままの姿だ。咲のそういうところを、俺は見たかった」
世界が広いんだということをもっと知って欲しい、といった理鶯さんの言葉を思い出す。
「……そうですね。あの狭くて逃げ場のない場所より、ここに居る方がずっと楽しくて、幸せです。このまま理鶯さんと一緒に住みたいな」
小川の水に手を入れて、ひんやりした感触を楽しみながら、叶いもしない願いをぽつりと呟いた。