第6章 野原と小川と
「すみません、こんな風にしてもらってしまって」
「いや、また靴擦れを起こしたら大変だ。気にするな」
私は素足のままテントを出ると、理鶯さんにお姫様だっこされながら森の中を歩いていた。
「でもさすがにずっとこのままは……重くないですか?」
かれこれ20分くらい、こうしている。体勢が安定するから、と理由で腕を理鶯さんの首に回すように言われていて、そうしているけれど、代わりに理鶯さんの首に負担がかかっているはずだ。
でも理鶯さんは顔色一つ変えずに私を運んでくれていた。
「いや、咲の重さなんて、俺にとっては軽いくらいだ。これより全然重たいものを長時間運んでいたこともある」
「軍での仕事は、大変だったんですね」
「まあ、それなりにな」
それ以上、あまり自分のことを語ろうとはしなかったので、私は無理に聞かなかった。
木の葉が生い茂った大きな木の隙間からは太陽の光が差し込んでいて、地面を照らしている。木々が放つ澄んだ緑の匂い、落ち葉、その上を歩く理鶯さんの靴の音。
そういったもの見たり聞いたり、肌を通じて感じる理鶯さんの温もりが、毎日すり減っていく心身を癒やしてくれる。