第5章 理鶯さんは欲情する
やっと理鶯さんに会える。そう思うと、靴擦れの痛みなんかどうでも良くなって、嬉しさで胸が高鳴った。
「おい、理鶯いるか」
左馬刻さんが大声で名前を呼ぶと、テントの裏側から理鶯さんが現れた。
「ああ、左馬刻。それに……咲もいるな」
穏やかな眼差しに見つめられ、私の心の中が温かくなっていく。
「お久しぶりです。理鶯さん」
一方の左馬刻さんは不満そうな顔で、煙草を取り出して火を付けると、ふーっと大きく煙草をふかした。
「おい、理鶯。毎回ここに来るだけですげえ疲れるんだよ。もうちょっと何とかならねえのか」
「いつも手間をかけさせてすまないな。お詫びに疲労回復にぴったりの小官特製のドリンクを……」
そう言って理鶯さんが銀色の筒をどこからともなく取り出すと、左馬刻さんの顔がたちまち真っ青になり、後ずさった。
「な、なんでもねえ。さっきの言葉は忘れてくれ。俺はすこぶる元気だ」
理鶯さんは眉を下げ、残念そうにドリンクをしまう。
「そうか」
「理鶯、そいつに嫌われたくなきゃ、その飲み物は絶対飲ませるなよ。あと、明日の10時に迎えに来るから、車の行き止まりのところで待ち合わせだ、いいな」
「ああ、分かった」
左馬刻さんが煙草をふかしたまま踵を返し、来た道を戻っていく。
「ありがとうございました、左馬刻さん」
後ろから声を掛けると、左馬刻さんは何も言わずに、ひらりと手だけ挙げて消えていった。