第5章 理鶯さんは欲情する
車が街中を抜けると、どんどん山の方へと向かって走っていく。
「……あの。理鶯さんはどちらにいらっしゃるんですか」
「あいつは山の中でサバイバル生活をしてる。普段、俺や銃兎が呼び出さない限り、俺たちが絶対行かないようなへんぴなところに住んでんだよ」
「そうなんですか」
サバイバル生活がどんなものか、私には想像もつかなかった。
しばらくすると、車はほとんど舗装されていない本格的な山道に入っていく。左馬刻さんが嘘を吐いているとは思えないけれど、がたがたと体が揺れる度に、理鶯さんは本当にこんなところに住んでいるのだろうか?という気持ちになる。
唐突に左馬刻さんがおい、と私を呼んだ。
「理鶯に会う前に、一つだけ忠告しておいてやる。あいつが作った変なメシは食わない方が良い」
「変なメシ?」
問い返すと、左馬刻さんの顔は苦虫をかみつぶしたような渋い表情へと変わった。
「あいつは、料理の腕は悪くないが、使う食材に問題がある。どんな食材だったか、思い出したくもない」
そこまで言われると逆に興味がわく。でもあの左馬刻さんがここまで嫌な顔をするのだから、相当なものなんだろう。
「わかりました。気をつけます」
「ま、そこら辺は銃兎が理鶯に仕込んであるから、たぶん大丈夫だとは思うが。一応、な」
あるところまで行くと、とうとう車は行き止まりに当たった。その横に、細い獣道がある。
「理鶯はこの道の先に住んでる。ここからは降りて歩くぞ」
「はっ、はい」
促されるまま車を降り、私たちは獣道を進んでいく。左馬刻さんはポケットに手を突っ込み、「あーめんどくせえ」と言わんばかりの背中を向けて私を先導してくれた。
でも、そこからが長かった。左馬刻さんは時折振り向いて私の様子を確認しながら、前に向かって歩くこと1時間。
そろそろヒールの高い靴が靴擦れを起こして痛くなってくると、ようやくテントらしきものが見えた。
「あそこが理鶯が住むキャンプ地だ」