第18章 人の生
「お前らも大概拗らせてんな」
「フォー?!」
「フォーさん!?」
ラビとダグの取っ組み合いの最中に小さな体を滑り込ませ、二人の首根っこをむんずと鷲掴む。
「盗み見なんかしてんじゃねーよ。
ってか、休憩時間とっくに終わってるからな!」
突如現れた彼女に驚く二人。
フォーは荒っぽく2人を投げ捨て尻餅をつかせた。
「取っ組み合いしてる体力があるってことは、まだまだ余裕ってことだな?」
ニヤッと不敵に笑う彼女にラビとダグは思わず顔を見合わせギョッとする。抗議の声を上げる間もなく「すみれの仕事が終わるまで鍛錬続けるからな」と釘を差されてしまった。
「貴様ら!何を騒いでるんだ?!」
ラビ、ダグ、フォーの3人の騒ぎに気づいた支部長が部屋から顔を出す。
「ラビ?」
鈴を転がしたような、凛とした優しい声音。
支部長の後ろからひょっこりと声主のすみれが顔を出す。
「すみれ!」
久々に名を呼ばれ、嬉しさからラビの心臓がどうしようもなく高鳴る。すみれを見れば目がほんの少し赤く腫れており、長いまつ毛はまだ涙に濡れていた。
ああ、彼女をこれ以上泣かせたくない。
そしてすみれの涙を拭うのは自分で在りたい。
すみれが好きだ
「すみれッ…
ぐえっ?!」
すみれの元に駆け寄ろうとまさに今、再びフォーに首根っこを鷲掴みにされる。
「休憩は終わりだ、小僧共」
フォーは暴れるラビとダグを引き摺りながら支部長室から離れていく。それは自ずとすみれとも離れていく訳であって…
「フォーさんっ、ちょっと!」
「オイッ、離せって!」
「すみれに何をしてやれるってんだ?」
「「?!」」
「今のお前らに出来ることを見直すんだな」
「んな必要ねえさ!……」
「…っ」
「ガキのくせに。そう慌てなさんなって」
黙り込む2人を余所目にフォーはポツリと呟いた。
「アイツらは上司と部下だよ。
まぁ、すみれにとってはな」
バクがどう思ってるかなんて、アタシは知らねーよ
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