第18章 人の生
* * *
1秒でも早く会いたくて、支部の出入口でこの俺様が待っていただなんて。君は想像もしないだろうな。
バクは支部長室でひとり、すみれとの再会を思い出す。
『バ……バク支部長っ!!』
バクの姿を見るなり、すみれはすぐ抱きついてきた。
バクはすみれの顔を見てすぐ気づき、そして思う。「かつて、不安と悲しみに囚われていた彼女が、こんなに穏やかな表情になって」と。
バクとすみれが久々の再会を噛み締めていると、衝撃…というよりショックを受けている青少年が二人。
(嗚呼、すみれがこんな元気になったのは。
黒の教団は、もちろん。きっと彼ら………ブックマンJrのおかげなんだろう。
本来なら、自分の役目で有りたかった)
すみれが自分に心を開いている事に、大人気なくも青少年二人に優越感が募る。同時に彼らに感謝するも、こんな事を想った。
(すみれがアジア支部へ来た日なんて、ついこの間のようなのにな…)
アジア支部の地下水路で、不安そうなすみれを見送った。
彼女の不安を払拭したくて、明るく見送るはずだった。しかし実際はうまく笑えず、彼女を見ていただけだった。
これから彼女が成長していくその日々が。
過去の悲しみに囚われないよう、何か伝えたかった。
けれど別れ際になっても、別れの挨拶に代わる言葉は見つけられなかった。
今でも鮮明に覚えている。
泣いてもいいのに、泣かないように。不安な気持ちを一つも言葉にせず、心を押し殺すすみれを乗せた船が離れていくのを。
だから、そんな彼女が嬉し涙を流して、再会できたことが何よりも嬉しかった。
(やはり、自分は……)
―――――すみれが、大事すぎる。
―――――コンコンコン。
バクが物思いにふけっていると、支部長室の扉を叩くノックの音が響いた。
「入れ」
そう、入ってきたのは―――――。
* * *