第18章 人の生
「此処は!一体…!!
何処なんだぁ?!!」
バクの叫び声が、地下聖堂中に木霊した。
彼は1人、アジア支部の地下聖堂を彷徨っていた。
「…くっ!フォーのヤツ!」
フォーにからかわれ追いかけるがまま、気づいたら1人置いてかれた。困ったことに、どのくらいの時間が経ったのか分からない。
建築中の地下聖堂に迷い込んでしまった。いや、正しくは建設が途中で中断した地下聖堂に迷い込んだ。そのため人っ子一人見当たらない。
「自分が何処にいるのかすらも分からん!」
叫んでも、大きな独り言を呟いても。返事は木霊する自分の声のみ。
建設途中である壁が、椅子ぐらいの高さで放置されている。バクはそこに腰掛け足を組む。
「歩くことすらままならないな」
足元には瓦礫や、使用されなかったレンガや材料がゴロゴロとそこら中に転がっている。灯火もまちまちで、自分の足が辛うじて見えるくらいだ。
この状況が、今の自分そのものを映し出しているようだとバクは思った。
「……このまま、歩き続けられるだろうか」
黒の教団やアジア支部、チャン家として重くのしかかる責任。絶望の中、微かな光を求めて捕まえようとするも。その手をいとも簡単にすり抜ける。触れることさえ叶わない。足元には犠牲となったモノ達で溢れかえる。
それらに囚われることも、歩んできた道を振り返ることも許されない。
進むしかない。
僅かな希望を精一杯掻き集めて、犠牲となったモノを踏み台に伸し上がる。
“聖戦に勝利する”
経緯など関係ない。
それだけを見据えて、前に進む。
「……はッ、」
立ち止まることが恐ろしい。
立ち止まってしまったら、アジア支部長としての責務や、チャン家の罪と使命に飲み込まれてしまいそうだ。
「手放してしまえたら…」
どれだけ楽になれるだろう、と。
言いかけて辞めた。口にしたところで楽になれる訳がない。
この運命から逃れる事も。一族の重苦しい使命や罪を誰かに請け負って貰う事も、決して出来ないのだから。もちろん、他の誰かにそれらを擦り付けたいと思わないが。
暗くて何も見えない、高い高い天井を仰いだ。
………何も見えないはずなのに、バクの目の前に何かヌッと現れた。